兄嫁は下級生!? 〜The family game〜
01/事の始まり
「俺達、結婚しようと思うんだ」
その瞬間……遠野家のリビングに集められた三人の乙女達は、まるで瞬間凍結されてしまったかのように静止してしまった。
まったく理解できない。
いったい何を言っているのか……目の前の男性――志貴が放ったその言葉を租借し吟味することが出来ず、秋葉、翡翠、琥珀の三名は恥ずかしながらも、ほけっとした表情で青年を見つめ返した。
その三対六つの瞳の光を、再度の説明を要求するものと取った志貴は、それに従って口を開いた。
「俺と、彼女は結婚することに決めたんだよ」
彼の律儀で明確な説明に、さすがに停止していた脳神経も復活したのか……まず最初に反応したのは琥珀だった。
精神的に、もっともショックへの耐性があるのだろう。
ぱぁっ! っと、いわゆる「花が開くように」という例えがふさわしいほどの笑顔が、割烹着の少女の、その顔に浮かぶ。
「わぁ! おめ……」
ごずんっ!
「じょ、冗談じゃありません!」
賛辞の声を上げようとした琥珀を鮮やかな裏拳で沈黙させ、秋葉は叫んだ。
渾身の力を込められたその咆吼に、志貴青年の横にその小さな身体をさらに縮こまらせて座っていた少女――瀬尾晶はビクンッと身体を硬直させる。
だが、そんな後輩の怯えた姿など視界には映っていないのか、秋葉は志貴をただひたすら睨み付けた。
「兄さん、正気ですか?」
「冗談でこんな事、言えないよ」
まっすぐこちらを見返してくる志貴の瞳には嘘はない。秋葉本人も良く知っている、普段やる気がなさげな自分の兄が本気になったときだけに見せる、真摯な瞳だ。
分かってる。だからこそ秋葉は自分の中に苛立ちがつのるのを感じていた。
この瞳を見せているときの兄は、ときどき理不尽なまでに頑固になる。そしてそこまで頑固な意志で語っているのだ……「結婚する」と。
「そんな……そんな事!」
「秋葉様。落ち着いてください」
「黙りなさい、翡翠! 落ち着けるはずがないでしょう!」
「いえ、落ち着いてください。冷静に考えて、お二人が結婚できるわけがありません」
「え?」
「志貴様、瀬尾様、お二人ともまだ未成年です」
「俺は18。晶ちゃんは16。二人とも結婚できる歳になったんだよ、翡翠」
「いえ、それはあくまで『保護者の同意の元』です。保護者の同意がなければ……」
「晶ちゃんのご両親には会ってきたよ」
「何時の間に!」
ほとんど悲鳴同然の叫びに対し、志貴はあっさりと「一昨日」と返した。
確かに一昨日、志貴青年は朝方から外出し、夕食にも顔を出さなかった。おそらくその日、瀬尾宅にて晶の両親と会食していたのだろう。
「ですが、志貴様の方は」
「有間の家にはもう一週間も前に行ってるよ。ちなみに、もちろん両方共の親に承諾はもらった」
「あはっ。用意周到、準備万端。これじゃ事後承諾ですね♪」
口調は柔らかく、表情も穏和な琥珀――顔面陥没の重傷から、いつのまにか復帰している――だったが、その奥には微妙な感情が含まれていた。
しかし感情を隠蔽する術にたけた彼女ゆえに、それがまわりの誰かに気づかれるような事はなかった。
「そうです。琥珀の言うとおり、これじゃあ事後承諾じゃないですか!」
「結果的にそうなったのは、確かに悪いと思ってる。でも……」
「でも、じゃありません! 私は絶対に認めませんからね!」
そういうと思ったから事後承諾にしたんだよ……とため息をつく志貴。
結婚を決めた時点で、すでにこうなることはわかっていた。だから、一番最後に持ってきたのだ。
やや汚い手法といえるかもしれない。だが、それだけ妹の説得という障害の大きさを考えてのことだった。
「で、でも遠野先輩」
「瀬尾! あなたは黙ってなさい!」
「は、はいぃっ! ごめんなさいぃぃぃっ!」
勇気を出して――ついでに挙手までして――発言しようとした晶だったが、怒り狂った秋葉にはまったくの逆効果だ。
空腹の狼や、子育て中の熊をも凌ぐ、強烈な殺気を含んだ視線を向けられ、晶は半泣きになりながら再び身体を縮こまらせた。
「こらこら、晶ちゃんにあたるなよ……」
「かばうんですか! 兄さんっ!!」
「かばうっていうか……。まぁとにかく、ちょっと落ち着けよ」
「だから! これが落ち着いていられるはずがないでしょう!」
ドンドンッと手近なテーブルを砕かんばかりに叩きながら、秋葉は自分がどんどんヒートアップしていくのを感じていた。
遠野家の当主として普段から常に冷静であろうとする性格をもつ彼女だが、今はその鍛えぬかれた自制心も追いつかない。
イライラする。たまらなくイライラする……
いきなり、唐突に、突拍子もなく結婚を宣告してきた兄。
そんな兄の隣に、何の遠慮もなく寄り添う後輩。
許せない。そんなの、絶対に許せない。
そこに居るべきなのは、そうなるべきなのは!
自分しか居ないはずなのだから!!
「秋葉様」
「っ!?」
「一度、部屋へ戻られませんか?」
「何をっ……」
ふざけたことを行ってるんですか……と続けようとして、秋葉は周りの人間の表情に気がついた。
志貴も、晶も……本人達はどうなのかは別にして秋葉の視点では……哀れんでいるようだった。突然の事に、子供のようにダダをこねるしかない自分を、哀れだと想っている。
「秋葉様」
「……そうね」
自分の中にある感情が抑えられない。そのことが分かっているだけに、秋葉はその琥珀の提案に素直に従うことにした。
これ以上ここにいても、自分が惨めになっていくだけだから……。
なかがき
えと、はじまりました。
新シリーズです。
某家族○画、とはなんの関連もありませんが、前々から書いていた家族についてのSSをやっていきます。といっても、雨音の場合、ちょっと歪んでますけど(笑
それに、かなり急展開します。(下の各話タイトルを見れば一目瞭然)
この魅力的な設定を、勿体無い事に萌えない話に持っていっちゃいますが、
ちゃんと綺麗にまとめるつもりなので、赦してください(汗
一応、全体の構成は出来ていて、
00/朝の風景・前
01/事の始まり
02/悪巧み♪
03/始動! 花嫁候補生!!
04/ランチタイム・ディスカッション
05/夜想曲
06/崩壊が始まる
07/狂おしく、愛しく
08/きっと一番、大切なモノ
09/朝の風景・後
という、十篇で書いていってます。
でも、もちろん。いきなり変わっちゃったり、するかもしれませんが(笑
家族がテーマのSS第二弾!
第一弾である「家族の情景」もご一緒に、どうぞお付き合いくださいませ。
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