兄嫁は下級生!? 〜The family game〜
02/悪巧み♪
「まったく……兄さんはどうかしてます!」
部屋に帰った秋葉は、ソファーにドスンと腰を下ろした。
先ほどはすこし凹んでいた秋葉嬢だったが、リビングから自分の部屋へ帰ってくるまでに再び苛立ちが復帰したようだ。
一度ついた火はなかなか収まらないものなのだろう。
「だいたい、なんであんな小娘なんですかっ!」
一瞬手を振り上げようとして……しかし振り上げたところでそれをぶつける物が手近な場所になく、彼女は手を元の位置に戻した。
そのかわりに、たまっていた怒りをため息として吐き出す。もちろん、そんなのはキャンプファイアーに小便を引っかける程度の、無意味な努力だった。
「小娘と言っても瀬尾様は16歳ですし……」
「そうです。なんであんな子供相手に! 兄さんは幼女趣味なのですか!?」
その言葉に、翡翠は以前彼の部屋のベッドの下から出てきた『肯定的な証拠』を思い出したが、主人の誇りのためにもそれは黙っておくことにした。
だいいち、自分より一つ年下の少女に向かって『幼女趣味』は無いだろう。
「ですが、晶さんはまだまだ成長期ですからねぇ♪」
「ム……」
「今後の成長には期待がもてます。ですが……」
琥珀が言葉を詰まらせた。紛れもなく秋葉の胸部を見つめたときであった。
「琥珀。何が言いたいのかしら?」
「いえいえ。別に去年の身体測定からほとんど変化していないなぁ、なんてまったく考えてませんよ〜♪」
「琥珀っ!」
つくづく思うのだが、この使用人は主人に対する忠誠心とか、そういったものは持ち合わせていないのだろうか?
「とにかく、認めませんったら認めません! 絶対に認めませんよ!」
「はぁ……ですが、秋葉様。それはあまりよろしくない判断かと」
「何がですか!」
「志貴さんの性格をよぉ〜く考えてくださいよ? 大切な人のことになると周りが見えなくなるほどに頑固で、だけど周りの人を傷つけられないほどに優しくて、しかも意外と情熱的な所がある志貴さんの性格を考えると、下手に拒否し続けるとそのまま駆け落ちしてしまう可能性が……」
言われて、秋葉は脳内でシュミレートしてみた。徹底的に否定し、絶対に認めないと言う自分。そんな自分を見て、兄は……こう考えるのだ。
『秋葉は自分と晶との結婚を心の底から嫌がっている。しかし自分は晶と結婚がしたい。だったら、取るべき手段は……秋葉の元を離れるしかない』
完全にこちらが否定している意味を取り違えているのだが、あの鈍感な兄なら十二分にあり得ることだ。あまりにもリアルなその風景を想像し、秋葉は今まで顔を真っ赤に染めていた血がスーっと引いていくのを感じた。
「「そんなの困る!」」
……と、そんな悲鳴が上がった。
しかし、それは秋葉だけの物ではなかった。
「……翡翠。どうしてあなたが困るのかしら?」
ジロリと陰険な色の視線を、翡翠は顔を背けることで回避した。
本人にもなぜあんな事を言ってしまったのか、その答えはよく分かっていないのだ。しかしおそらくそれは秋葉と同じようなものであっただろう。
そしてその初々しい姿に微笑む割烹着の少女もまた、声には出さなかったが(それが何であるのかを知っていたから)同様の感情を抱いていた。
「でも、確かに困ります。せっかく志貴さんと一緒に住めるようになったのに、また居なくなってしまうなんて寂しいですから」
「……えぇ……そうね。やっと兄さんと暮らせるようになったっていうのに」
かつての我が家。
愛せない父親と、自己顕示や利己主義の塊のような親戚達。
その中で、ただかつての兄の面影だけを追いながら、退屈に生き続ける自分。
あの日々にもう一度戻るなんて耐えられない。
それは、秋葉達3人に共通する、思いだった。
「どうすればいいの?」
「認めれば良いんです。といっても、それが出来るなら苦労はしませんねぇ」
「要は、理不尽に一方的に否定するのではなく、否定する理由が志貴様も納得できるような物なら良いのではないでしょうか?」
「そうね。それがいいわ。秋葉様、こんなのはいかがでしょうか?」
翡翠の提案に、琥珀はうんうんとうなずき、何かを思いついたのか秋葉の耳に口を寄せた。
「ごにょごにょごにょ……」
「…………なるほど。それは良い案かもしれないわね」
なんか、悪巧みしているようだった。
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