兄嫁は下級生!? 〜The family game〜





05/夜想曲


 
「兄さんは?」
 何処へいっているの? の意味。
「ご想像通りです」
 晶様のところですよ。の意味。
 夕食後、リビングで一人、紅茶を楽しんでいた秋葉だったが、ふと気になったのが先の質問だ。
「……そう」
 仕方ないか、とも思う。
 今日は確かにしごき過ぎたかもしれない。
 昼食後も仕事を続け、結局夕食を食べることも出来ず床についてしまった後輩の姿を思い、秋葉は小さな罪悪感を感じていた。
 彼女自身、別に晶を嫌っているわけではない。
 むしろ、その一所懸命で可愛らしい姿を、好ましく思っていた。
 そういう意味で、今の秋葉はまだ冷静なほうなのかもしれない。
 もし志貴が連れてきた女性が、見ず知らずのどこの馬の骨ともしれないような女だったとしたら、秋葉は容赦なくその相手を攻撃し、遠野の力を全て使ってでも排除しようとしただろう。
「ふぅ……」
 自分も随分お人よしになったモノだ。
 秋葉は本日何十度目かのため息をついた。
「結婚……か」
 まさか、こんなに追い詰められた状況で、この言葉を使う羽目になるとは、思ってもみなかった。
 自分がこの言葉を使うときは、きっと最大限の幸せに包まれた状態でだろう。なんて、想像していたというのに。
 そこで、秋葉はふとある言葉を思い出した。
『言葉には魔が宿る。その魔は様々な力を発揮するが、多くの場合、死に至る』
 そうだ……。
 きっとこれもまた、言葉に宿った魔が魅せる夢幻に相違あるまい。
 おそらく、どこぞの人外が放った奸計で、この遠野秋葉を内より滅ぼさんという謀略なのだ。
「兄さんは、私の兄さんなんだから」
 絶対、誰にも渡さない。
 だが……果たして本当にそんな事が可能なのか。
 秋葉には自信が無かった。
 兄のことを愛している気持ちに自信がないわけではない。
 それには絶対の、誰にも負けない自信がある。
 ……だからこそ、分かるのだ。
 自分では、兄を振り向かせることが出来ないことに。
 瀬尾晶にあって、自分には無い、大事なものが。
 それは、埋めようと思って埋められるものではなく。
 けして、塞がることの無い、傷跡だ。
 秋葉は、椅子から立ち上がると窓際に寄った。
 ガラスの向こうに、黄色い月が見える。
 そう……例えばこの、月……。
 月は日々形を変える。
 新月にはじまり、三日月、半月……そして満月。
 満ちては欠け、欠けては満ちる。
 それらは、繰り返される。
 永遠に。
 人間も、同様ではないだろうか?
 生まれ落ち、そして死ぬ。
 でも、きっとまたいつかどこかで生まれてくる。
 ただ、その周期が大きすぎるから、私たちはその事実に気づけないだけ。
 観測できない事実に、人間は気づけないから。
「廻り廻り、繰り返す。近く、遠く。繰り返し続ける。生きる。死ぬ。産まれる。消滅する。クルクルと、繰り返す。でも、また同じ所へ戻ってくる。月も、人も、全てが。そしていつか……」
 月蝕、日蝕のように、ぴたりと重なり合う瞬間が、またいつかやってくる。
「なのに、私たちは……どうして兄妹などに生まれてしまったのでしょうね?」
 そう口に出して言って、秋葉は自嘲した。
 自分の考えていることが、狂気であることに気づいたから。
 狂っているとしか言い様がない。遠野秋葉にあるまじき、愚かな考えだった。
 秋葉は窓際から離れた。
 これ以上考えていても、頭がおかしくなっていくだけだ。
 今日は、もう寝よう。
 明日になったら、晶に謝っても良いかもしれない。
 今日みたいなやりかた、フェアじゃない。
 それは、秋葉の嫌いとする事だった。






 中書き

 次回から急展開♪
 一気にシリアスモードへ突入なのです。






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