ごった煮SS・とりとめのないストーリー
『まとまりに欠けるプロローグ』
ーーーやばいーーー
その場所へ入った瞬間、柏木梓は自分の身体が震えるのを感じた。
何かが・・・いる。
見慣れた水門近く。そこよりさらに奥に入ったところ。
普段は誰もいない巨木の立ち並ぶ森の中に・・・居る。
(まさか・・・ねぇ)
観光地となった雨月山なのだから、このあたりに迷い込んできた人が居てもおかしくないはず。梓は一度そう言い訳してみた。
だが・・・違うと言っている。本能が。
人間にはあり得ない、気配すら武器になる獣の存在感。
(まいったなぁ・・・やっぱり耕一についてきてもらえば良かった・・・)
家を出るさいに柏木耕一から「一緒に行こうか?」と声をかけられたのだが、そのとき梓は気恥ずかしさから思わず断ってしまったのだ。
(ったく、なんで一度断っただけで諦めるんだよ、この甲斐性なし!!)
状況を忘れ、ココには居ない耕一に怒りを向ける梓。
そんなこと言うのなら、最初から断らなければ良いのに・・・と本当は分かっているのだが、それができないのが梓という少女なのだ。
だが、それでも分かって欲しい乙女心。
(だいたい、楓や初音にはあんな甘いくせにぃ!ってか、千鶴姉ぇにまでも優しいし!)
自分に対する態度と姉や妹たちに対する態度との違いを思いだし、本人も押さえきれない苛立ちが彼女の胸中にあふれ出る。
だが・・・それもすぐに消えた。
『ーーーーーーーーーッ』
頬を撫でる柔らかな風に乗って、何かが聞こえた。
悲鳴のような、うめきのような、低く不快感を誘う声。
熱くなっていた身体が、心が、一瞬にして凍り付いていく。
まともな人間ならば、その見えない恐怖におびえて逃げ去ることだろうが、それでも梓は気丈だった。
「さて、どうする・・・」
まず、口に出して問いかけてみる。
一番の安全策は、向こうがこちらに気づく前に家に帰り、耕一を連れてくる事。
だが、相手がどんな存在か分からない現状ではうかつな行動はとれない。
下手をすれば、耕一まで危険な目に遭わせてしまうかも知れない。
ならば・・・安全策は捨てるか?
(可能な限り接近してやる。せめて、相手がどんなやつなのかくらいは見ておかないとね・・・)
もしかしたら見つかるかも知れない。見つかれば、戦闘になるかも知れない。
勝てるか・・・
否。
現段階では判断は不可能だ。
だいいち、まだ完全に鬼の力を制御できない梓の戦闘力はその状況や精神状態で大きく左右される。
相手が分かっていても安易な判断は出来ないほどに。
その辺、彼女自身もよく分かっている。
(ならばやはり引く?それこそ否よ!相手も見ずに、逃げられますかっての!)
本心は行くなと命じている。だが、それを無視して梓はそちらへと足を向けた。
もちろん、こちらの気配に気づかれないよう注意しながらだ。
足音を殺しながら、ゆっくりとゆっくりと近づく。
それに比例して、徐々に強まる気配。
そこはさっきまでいた場所と大差ないはずなのに・・・さきほどまで感じていた木々や虫、鳥達の生命の息吹が全く感じられない。
おそらく、その気配が威圧しているのだろう。
かくゆう梓自身も、身体からあふれ出る冷たい汗を押さえられないでいた。
(これは・・・ホントに・・・まずいか・・・)
身体がぶるぶると震える。
はぁはぁ、と陸上で鍛えられたはずの呼吸が乱れる。
普段は気にならないだろう、地面を踏みしめる音がやけに大きく聞こえる。
歩いているだけなのに、やけに消耗する。
その気配が、彼女の体力を削っているのだ。
(これは・・・間違いなく・・・)
それは、前に感じたことのある物だった。
柏木家を襲った悲しい事件。
その中で相まみえた強大な敵。
人間の常識など無条件に引き裂き、圧倒的な力で叩きつぶす。
強いとか弱いとか、勝てるとか勝てないとか、そんな問題じゃない。
ただ、狩られるか、逃げ延びれるか・・・。
そういった、不条理なまでの力の差をもった・・・狩人の気配。
(狩る側に在るものだけが出せるプレッシャーだ・・・)
震える心で、そう呟く。
だが、そう認識した瞬間・・・
ゾクリッ
梓の中をなにか嫌な感じが駆け抜けた。
「はぁ、はぁ、はぁ、ハァ、ハァ、ハァハァハァハァハァハァ・・・」
身体が震える。だが、恐怖からではない。
びきびきと筋肉がひきつり、知らず知らずに力が入っていく。
呼吸が激しく乱れる。押さえても、押さえても、押さえきれない・・・。
身体の奥底から、どうしようもない「それ」があふれ出してくる。
感覚が鋭敏になっていく。いまなら、木々のわずかな揺れや、風の流れすら感じ取れる。
「・・・ふっ」
・・・微笑が漏れた。
それと同時に、ふるえも、動悸も消えた。
不思議と、不用意な音がたたなくなった。
身体が、ごく自然に動いていく。
わずかな木漏れ日以外には暗い森の中で、ギロリと梓の「紅い」瞳だけが鮮明に浮かび上がった。
はたして彼女自身は、気づいているのだろうか?
今自分が・・・その木々の向こうにいる存在と同じ、「狩る側」の気配を出していることに。
(イル・・・イルゾ。ワタシトタタカエルソンザイガ・・・)
引きつけられるように、恋い焦がれるように、梓は確かな足取りで近づいていく。
やがて、光が・・・見えた。
どうやら、森の中に一部、木が生えていないゾーンがあるようで、そこにぽっかりと光のホールができあがっているようだ。
そして、おそらく、その存在は光の中心にいる・・・。
(サァ・・・サイコウノコロシアイヲシヨウ)
(いくんじゃない。ひきかえせぇ!)
最後に残ったわずかな理性が足を止めようとする。
こんな事は望んでいない。あたしは戦いたいんじゃない。殺し合いがしたいんじゃない。
だから引き返せ!!
だが、そんな梓の声もむなしく、結局・・・燃えたぎる鬼の魂が背中を押した。
そうして・・・梓は光のコロシウムへと足を踏み入れた・・・。
煌めく光の幕が・・・降りる・・・。
「フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!」
ズデンッ
「なぁぁぁっ!」
さっきまでのヤバげな雰囲気はどこへやら。
ずっこけながらも、思わずツッコミ(?)をいれてしまう梓。
いや、それもしかたないだろう。
なぜなら、その光のホールの中に居たのは、高校生とおぼしき制服を着たツインテールの女の子なのだから。
しかも「フハハハハ」などというあからさまに不自然な笑い方で、力一杯、腹の底から笑っているのだから・・・。
これでつっこまなければ何処でつっこむというのだ!?
「う〜ん・・・いまいち」
「何が!?」
「ム?なにやつ!?」
女の子はいまいち反応が遅かった。
「あ・・・あんたはぁ・・・」
「何、あなた誰なの!?」
「こっちが聞きたいわ!あたしゃてっきりまた前みたいな敵が現れたんじゃないかって・・・」
「・・・敵?」
年齢は分からないが、思った以上に幼い仕草で首を傾げる女の子。
なんだか、さっきまで真剣に考えていた自分が情けなくなってきた・・・。
「はぁ・・・で?あんたは何やってんの?こんなヘンピなところで・・・」
「何って・・・わからない?特訓よ!」
「特訓?空手とかなんか?」
「いいえ、違うわ・・・」
そういうと、拳を力一杯握りしめ・・・
「立派な吸血鬼になるための特訓よ!!」
「・・・はぁ?」
「せっかく、あのアブノーマルな遠野君が喜びそうな吸血鬼っていう属性をゲットしたのに・・・気がついたら何時の間にか、へんな巨乳の金髪外人やら、眼鏡属性の先輩やら、ナイチチの妹やら、タッグなら無敵っぽい双子メイドやらと仲良くなってて、・・・その上!何処の馬の骨とも分からないような子ギツネっぽい後輩や、あげく!無口&無表情のロリっ娘までもがそばに付きまとってる始末!!」
(あぁ・・・なぁんかやばい人に話しかけちゃったなぁ・・・)
やっぱり逃げてれば良かった・・・なんだかすっごく後悔する梓。
だが、そんな梓の気持ちも知らず、女の子はひたすら喚き続ける。
「なんで!どうして!普通、健気で優しくて気配りの出来る同級生といえばヒロイン組に入っててもおかしくないでしょうに!いいえ!その上吸血鬼になってしまったんだから、それこそメインに立っても良いはず!?吸血鬼になってしまったヒロインを助けるために戦う主人公。激戦の中、やがて二人の間に真実の愛が芽生える・・・って感じで、原稿用紙10000万枚はいけるわよ!!」
いけねぇよ(リアルツッコミ
「それなのに・・・いつまでたっても、私は脇役。ストーリー途中で殺されちゃう脇役。リベンジもかなわず、一部のコアなファンの叫びもただただむなしいだけの脇役。だから!!私は!!立派な吸血鬼になって遠野君のハートをゲットしちゃうのよ〜!!」
(遠野君とやら・・・ご愁傷様)
実際には、女の子の方が十分にかわいそうな役所なのだが、彼女の狂気(としかいえない)を見てしまうと、その顔も知らない彼に同情せざるをえない。
柏木耕一も大概女性関係で苦労している方だろうが、聞いた限りその遠野の方が大変そうだ。
「・・・で?特訓って、なにしてるの?さっきは笑ってるだけに見えたけど・・・」
「フフフ。これでもいっぱい勉強したんだから。あなた、吸血鬼と言えば何を連想する?」
「・・・血を吸う?」
「ノンノン♪吸血鬼と言えば・・・貴族よ!」
「・・・ドラキュラ伯爵?」
「そうそう!で、貴族と言えば?」
「・・・偉そう」
そこまで言ったところで、梓は何となく嫌な予感を感じた。
だが、そんな梓の気持ちも知らず、女の子は続けた。
「その通り!そして偉そうと言えば!?」
「・・・さっきの笑い声・・・」
「ざっつらいとっ!」
やっぱり・・・
「だから、私は立派な吸血鬼になるために必死に笑い声の練習をしているのよ。フハハハハハハハハハハハハハ!」
「・・・殴ったら治るかな?」
たぶん無理だろう。すでにネジが完全に飛んでしまっている。
街でやれば職務質問されるか、問答無用で黄色い救急車を呼ばれるか、といった怪しげな高笑いをあげる少女。
梓は自分の家が「普通」じゃないことを前々から気にしていたが、今日この時、世界の広さを知った。
「はぁ・・・わかった。でも、なんだってここなんだよ。そういう練習なら他でも出来るだろ?」
紛らわしいから他でやってくれ、と、ため息をつく梓。
本来ならこういった危険な力を持った者は出来る限り目の届くところに置いておいた方が良いのだろうが、彼女を見る限りとくに害は無い・・・有る意味危険かも知れないが・・・みたいだし大丈夫だろう。
それよりも、このままココであの怪しげな高笑いを続けられれば、観光客達が変な憶測をしかねない。それで客足が遠のけば観光が収入の大半である隆山では大打撃をうけてしまう。
「だって、特訓するなら、総本山でやったほうがいいでしょ?」
「ん?総本山?」
「ここって、鬼の総本山なんでしょ?」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「あ〜・・・違うぞ?」
「違う?」
「・・・鬼は鬼でも・・・赤鬼青鬼の方の「鬼」で、吸血「鬼」じゃないぞ」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「うそぉぉぉっ!!」
「気づいて無かったのかよ?ちゃんと観光用のパンフレットとかに鬼の話が書いてあっただろ!」
「そんなぁ・・・鬼って言ったらみんな吸血鬼だとおもってたのに・・・」
「吸血鬼の総本山なら欧州へ行け!欧州へ!」
「そんなぁ・・・」
私、パスポート持ってないよぉ、と嘆きながら地面に膝をついてうなだれる女の子。
パスポートを気にする吸血鬼というのもなんだかすごく滑稽だったが、彼女が本気で悲しんでいるだけに笑うに笑えない・・・。
「せっかく・・・せっかく、がんばって特訓したのに・・・」
笑ってるだけで特訓ってのもなぁ、と呆れながらも、梓は少し彼女に同情していた。
彼女は割合バカ・・・っていうかかなりバカだが、それでもどこか憎めない存在だった。
それだけに、性格的に世話焼きな梓としては、「ほっとけない」といった感情を抱かざるを得なかった。
「せっかく・・・せっかく・・・」
「なぁ・・・まぁ、あんまり気にせずにさ。まだまだやり直せる・・・」
「私の1時間を返してぇっ!」
「短っ!!短ぁぁぁぁぁっ!!」
ゴインッ!
「痛ぁっ!うぅ・・・ぶつなんてひどいよぉ」
「うるさい!たかが1時間でギャーギャー言うな!!」
「う〜・・・だってぇ」
「だってもクソもあるか!もっとがんばれよ!」
「でも、笑い声を1時間も出し続けるの・・・結構しんどいよぉ?」
それは、確かにそうかもしれない。
だが、それも彼女が選んだ道。
体育会系の梓はそういうことに関して、非常に厳しかった。
「デモもストもない!」
「う〜、古くさい言いまわし。おばさ・・・」
「うるっさい!」
ゴインッ!
「いたぁっ!またぶったぁ〜!」
「あんたはいったい何のためにがんばってるんだよ!?」
「あ・・・」
「好きな人に振り向いてもらうためにがんばってるんだろ!?」
「そう・・・そうだった」
「たかが1時間でどうにかなるような人なの!その人は!」
「なるわけ・・・ないよ。あの無神経の大王様でキング・オブ・甲斐性なしで外道・ザ・ロードの遠野君が!!」
どんな人間なのか知らないが、遠野君はえらい言われようだった。
「・・・だったら、こんなところでへこたれてないで、もっとがんばりなよ!・・・ココ以外のところで」
「・・・うん。そうだね、私もっとがんばるよ!・・・ココで」
空気が・・・止まった。
「・・・出てけ」
「・・・ヤ」
「出・て・け」
「嫌」
「・・・・・」
「・・・・・」
「出てけぇぇぇぇっ!!」
「なんで!ガンバレって言ったじゃない!」
「ココ以外でだ!余所へ行け!」
「ひどい!自分だけが安全なら他の人はどうでもイイの!?米軍基地を沖縄に押しつけて満足!?原発の電力は必要だけど自分の街にあったら嫌!?」
「関係ない!ってか、安全って何だ!何かするつもりなんじゃないか!!」
「なにもしないよ!・・・ただちょっとのどが渇いたら・・・」
「なんだ!なにをするつもりだ!」
「あはは〜気にしちゃダメだよ〜♪」
「気にするわ!気にするわぁぁぁぁぁっ!」
「うぐぅ」
「キャラ違うわっ!!」
力の限り叫びきった後、梓は疲れたといわんばかりにため息をついた。
散々叫んだので喉がからからだ。
・・・だが・・・なんとなく久しぶりに力一杯叫んだ気がする。
部活をやめて久しく、また耕一に対しても最近はあまり叫ぶことがない。
彼の態度は相変わらずだが、梓の心境の変化が問題している。
耕一のことを変に意識し始めてしまった梓は、今まで通り怒鳴りたいのに何処か気恥ずかしくて怒鳴れないといったストレスのたまる日々を送っていたのだ。
それだけに、久しぶりに発憤した梓の気分は幾分軽くなっていた。
だからだろう。梓は特別に気まぐれを起こした。
「ハァ・・・。ほんとに行くとこ、ないのか?」
「え?」
「いや、どうしても行くところが全くないってんならさ・・・」
「・・・ありがと」
少女はそういって少しだけ頭を下げた。
そして、続いて首を振った。
「でも、やっぱりいいよ」
「あんた・・・」
「大丈夫。全く行く宛がないワケじゃないから」
「・・・そっか」
安心したような・・・だけど、どこか寂しい、そんな不思議な感じだった。
わずかなやりとりだったけど、思いや境遇の重なる部分もあり、梓は彼女に対して妙な親近感を感じていたのだ。
大好きな人。その周りにいる魅力的な女性達。
みんなで楽しくやっているその背中を、少し離れた場所から眺めている。
自分もその場所へ行きたいのに、でも、今のままの心じゃ怖くて近づけない。
「本当にありがとう」
「ああ。がんばってな」
「うん。それじゃあ・・・バイバイ」
再開を予期させるような軽くて明るい別れの言葉。
そういって、彼女はわずかな惜しみもみせず、人外の動きで跳ねるように木々の向こうへ消えていった。
その姿を見て、初めて梓は彼女が自分たち同様化け物だという事を思い知らされた。
力を使わなければごく普通の女の子にしかみえなかったのに。
「・・・ガンバレよ」
望んでも得られない「普通」。
他人への負い目や引け目。
ココロを縛る血という鎖。
普通の人が普通に得られるだろう未来が、まるでドラマの中の世界のように見える・・・疎外感。
梓の感じるそれらの恐怖。
それはきっと、彼女の中にもあるはずだというのに。
だけど、そんな中でも彼女は・・・好きな人を必死に追っかけようとしてる。
やり方はスマートじゃないけど。
不器用で、およそ合理的という言葉からかけ離れてて、何処か間抜けで、馬鹿としか言いようがないけれど。
それでも・・・好きな人のために・・・
好きな人に追いつくために。その隣に並ぶために。
普通じゃない中で一生懸命がんばってる。
「ガンバレ」
ざぁ、と風が木の葉を揺らした。
異質な者の気配が無くなり、山の息吹が戻ってきたのだ。
その柔らかい季節を感じさせる風を肌に感じながら、梓は小さく、空へと呟いた。
「あたしも、がんばる」
あとがき
沙柳さん、「月影の街」10000HITおめでとうございます。
・・・いや、もう12000HITなんですけどね・・・(汗
ほんとはもっと早く書き上げるつもりだったんですが、なかなか上手く行かず、ちょっと書いては休み、ちょっと書いては休み、が続いてしまいました。
結果、こういったまとまりがないストーリーへと・・・(涙
本人も、なにが書きたいのか、サッパリです♪
あはははは〜♪まぁ、これからもよろしくおねがいしますねぇ♪(ごまかし
ちなみに、タイトルは・・・KANONSSを探している人なら、きっとパクリだという事が分かるはずです♪
追記:MyHPにこのSSの後日談をUPしてます。興味のある方はどうぞ。