「家族の情景」









 「家族」

 その言葉に感じる・・・不思議な違和感。

 「家族」

 その言葉に感じる・・・不思議な暖かさ。

 「家族」

 その言葉に感じる・・・不思議な憧れ。

 「家族」

 その言葉に感じる・・・不思議な・・・不思議な・・・

 「家族」

 それは・・・何なのだろう?









 冬が終わり、新たな季節がやってくる・・・。
 肌を指すような冷たい風が止み、徐々に柔らかな日差しが世界を包み込んでいく。
 そんな午後・・・。
 私は屋敷の中の掃除を終え、裏庭にきていました。
 姉さんの姿はありません。とりあえずあたりが小綺麗になっていることから、仕事は終えているようだけど・・・
 まぁ、あの人がどこかへふらっと消えることは昔から珍しくもないこと。
 どうせ、夕食前になったらひょっこりと現れる・・・。
(そう・・・ひょっこりと。<その間>にあったことをおくびにも出さずに)
 子供の頃から・・・ずっとずっと姉さんだけが苦しんできた。
 脳天気な私は自分のことで精一杯で、姉さんの傷なんて気にもしなかったというのに・・・。
 私はほとんど手入れのされていない雑草が茂った地面へと腰を下ろす。
 空を見上げた。
 木々の枝の隙間から蒼い蒼い空が見える。

 何処かでなくしていた・・・感覚・・・。

 大地は暖かく、空は美しい。
 優しく包まれたような感覚。
 それは遠い遠い昔、たしかに私のそばにあったはずなのに・・・。
 あの日から・・・無くしてしまった。
「違う・・・それはきっと幻想」
 姉さんはもっともっと前から、それを無くしてしまっていたのだから。
(姉さん。姉さんにとって私は重石でしたか?あなたを苦しめる、鎖でしたか?私がいたからあなたはこの温もりに触れることなく・・・)
 そんなこと、間違っても聞くことはできない。
 私には、そんなことを聞く権利はない。・・・いや、聞く勇気がない。
 だが、だからこそ不安になる。
 とめどなくあふれ出る湧き水のように、心の奥底からどす黒い何かが生まれ出てくる。
(姉さん・・・)
 涙が流れそうになるのを、必死にこらえる。
(姉さん・・・私は・・・あなたのためにがんばりたい・・・)
 日の光によって暖められた地面は程良く暖かく、私は・・・逃げるように睡魔の中へと飛び込んでいった。




 ・・・その場所に来たとき、私はその予想外の姿を見つけてすこし驚きました。
 普段はほとんど家の中からでてこない翡翠ちゃんが、裏庭にいるのです。
 しかも、地面に寝そべって・・・寝息をたてています。
「フフフ・・・」
 その姿があまりに無垢でかわいらしかったので、私はそのすぐそばに腰を下ろし彼女の寝顔をのぞいてみました。
「あ・・・」
 泣いてる・・・。
 泣いている・・・。
 どうして・・・。
 どうして泣いているの?
 泣かないで。泣かないで。
 私があなたを守ってあげる。
 だから・・・あなたは泣かないで。
 あなたは泣かないで!
 私はふるえる手で、翡翠ちゃんの頬に流れた滴をはらってあげました。
 ・・・そして・・・そのまま・・・その手を・・・
 ・・・首へ・・・

(ちがうっ!)

 まるで遠い昔の事のよう。
 それは雨の感覚だった。
 冷たく。
 激しく。
 私を打つ感覚だった。
 それは恐怖ではない。
 恐怖を感じる事が出来ない。
 純粋な・・・絶望。
 幼い身に、精神に刻まれた傷は深く深く私の奥へと入り込み、壊そうとする。
 だから私は・・・傷つくことをやめた。
 人形になってしまえば、私はもう傷つかない。
 涙を流さなくすむ。
 でも・・・それでも少しずつ積もっていく・・・。
 
 憎悪!
 
 怖かった。どうしようもなく怖かった。
 心が傷つくよりも、その憎悪が怖かった。
 徐々に、徐々に、私の大切な人たちまでも憎んでしまいそうになるのが。
 ”復讐機”へと変わっていく私の存在が。

 でも・・・。

「私は・・・翡翠ちゃんが好き・・・。秋葉様が好き。そして・・・志貴さんが・・・」
 それだけは真実。
 壊れてしまった私の中で、それだけは・・・。
 だから・・・。
「もう泣かないで・・・」
 もう・・・泣かない。




「・・・あら?」
 帰ってきたというのに、私を出迎えるいつもの姿がない。
 いままでなかったことだけに、何かあったのかと不安になる。
 結局、私は制服姿のまま、彼女たちを捜すことにした。
 ・・・我が家ながら・・・広い。
 普段は特に気にしないのだが、こうやって人を捜すときにはやけにその広さがいやというほどよくわかってしまう。
「それに・・・静か・・・」
 これだけの家にたった一人。ひどく静かだった。
 実際には、四人でいるときもそれほど騒がしかったわけではない。
 だが・・・けして寂しいと感じることはなかった。

(寂しい?)

 寂しがっている。私が・・・。
「弱くなったのかしら・・・」
 そう。きっと弱くなった。
 あの人が帰ってきてから・・・。
 いえ・・・それとも、あの人が出ていってから?
「・・・まったく・・・全部兄さんのせいですからね!」
 理不尽と分かっていながらも・・・なんとなくあの人の困った顔を想像して・・・私は寂しさが消えていくのを感じた。
「・・・あ・・・」
 見つけた・・・。
 屋敷の廊下から見える窓の向こう・・・裏庭の片隅に、服装だけが違う二つの同じ顔が横たわっている。
 おそらく眠っているのだろう・・・そこはまるで、その空間だけが時間を止めたかのような・・・絵画を観ているような感じだった。
「名前をつけるなら・・・穏やかな午後かしら」 
 すこし安直かもしれない。だが、純粋にそう見えた。
 でも・・・あの二人の心の奥にはどんな悲しみがあるのだろう。
 どれほどの苦しみを乗り越えてきたのだろう?
 わからない。私にはわかり得ないほどの苦しみ。
 だというのに、彼女たちはあんなにも・・・穏やかだ。
(・・・私だけが弱い)
 何不自由ない生活をしてきたはずなのに・・・
「私だけが・・・」
「違うよ」




「違うよ」
 屋敷中を探し回って見つけた秋葉の背中があんまりにも小さく見えたので、俺は思わずそう声をかけていた。
 秋葉が眺めていた窓の向こうには・・・。
 ・・・学校から帰ってきても出迎えがなかったのでどうしたものかと困惑していたが・・・あんなところでねていたなんてね。
「兄さん・・・帰ってらっしゃったんですね」
「ああ。ついさっきね」
 窓から差し込む太陽の光だけが光源の廊下で、秋葉はなんだか泣きそうだった。
「あの二人・・・穏やかだね」
「ええ。そうですね・・・」
「でも・・・特別強いわけじゃないと思うよ」
「・・・・・」
 強い・・・のかもしれない。でも、それは彼女たち一人一人が、ではない。
「だれも、一人じゃ強くはなれないよ」
 翡翠も琥珀さんも・・・。
 いろんな苦しみや絶望を受けながらも、がんばってきた。
 でも・・・それはきっと一人じゃないから。
「秋葉はたしかに弱いかもしれないけど・・・それはみんな・・・俺も含めてみんな・・・同じだから」
 弱い・・・。
 みんな、みんな、どうしようもなく弱い。
 ふとしたことで、簡単に壊れ。
 ふとしたことで、簡単に人を憎み。
 ふとしたことで、簡単に絶望する。

 でも・・・

「でも・・・きっと・・・もう大丈夫・・・」
 俺は、秋葉の肩を抱きしめた。
 それはむしろ、秋葉のためというよりは俺自身が不安だったからかもしれない。
 だから、それはきっと、俺自身に言い聞かせていたのかもしれない。
 遠い昔になくしてしまったものが、やっと戻ってきた。
 だから・・・もう二度と手放したくない。
 手放すことになるのが・・・どうしようもなく怖い。
 だから、俺は秋葉を抱きしめた。
「兄さん・・・」
「もう・・・きっと大丈夫だ」
 だいじょうぶ。だいじょうぶ。
 俺達は・・・一人じゃないから。







 夢の中、私は感じていた。
 無くしていた何かが、私を抱きしめてくれる感覚。
 とてもとても暖かい何かが、私を見つめていてくれる感覚。




 こうしている間は・・・憎悪が薄れていくのを感じました。
 それはきっと・・・ため込む必要がないからですね。
 安らぎが私を・・・私の狂気を包み込んでくれているからですね・・・。




 今までは・・・知らなかった。
 弱さが認められる場所。
 弱さを包み込んでくれる場所。
 私は・・・私たちは・・・
 いま、そこにいる。




 大丈夫!
 どんな悲しみだって、どんな苦しみだって、
 四人でいれば・・・
 きっとどんなことだって乗り越えられる・・・
 ・・・そんな気がする・・・







 その場所の名は・・・














 『家族』



















あとがき。

沙柳さん・・・おそくなってすみませんでした〜(劇汗
ということで、HP設立記念&1000HIT記念&気の早い2000HIT記念SSです!!!(ぉぉ
沙柳さんのHP設立のきっかけとなった月姫SSを書いてみましたが・・・。
・・・四人分の心理描写はきつかったので・・・何度も詰まったあげく・・・こんなのになっちゃいました。
原作の設定どおりの心理描写にはなってないかもしれませんが、その辺のところはご勘弁を・・・。
でわ。HP設立をそそのかした者として、

これからのますますのご発展をお祈り申し上げます。

そして、お互いHPを運営する者として、

これからもどうぞよろしくお願いします。