再び!ちーちゃん料理
「梓ぁ、今日の晩御飯、私が作るわ!」
『ただいま』の挨拶と同時に千鶴さんは、梓のいる台所に駆け寄り、いきなりの爆弾発言をした。
「なんだとーっ! 珍しく早く帰って来たと思ったら・・・また、よからぬ事を企んでいたな!」
ジト目で千鶴さんのほうを見る梓。
いかにも警戒心丸出しで、不審そうな顔だ。
「もう! よからぬとは何よ! せっかく、美味しい料理を作ろうといいもの持ってきたのに・・・」
シクシクと作り泣きをしながら、梓に言いかかる。
そんな時、ふと俺は「鶴来屋」の紙袋に目が行く。
「いいもの・・・?」
梓も疑問に思ったのか、千鶴さんに言い返す。
「その『いいもの』って、もしかして、その紙袋の中身ですか?」
俺がそう言うと、千鶴さんが俺のほうに向き直す。
「そうですよ・・・。あなた達と、耕一さんに美味しい松茸料理を食べさせてあげようと思って・・・」
「え? 松茸? 今、千鶴姉、松茸って言った?」
さっきの不審そうな顔はどこへやら、爛々と目を輝かせた梓の視線は千鶴さんの手に下がっている紙袋へ。
「ええ。今日、用があって本館の厨房に行ったら板前さんからね、
『今日、お客さんでキャンセルがありまして、松茸が少々余ってしまい、
どうせなら家で食べてくださいよ。輸入物ですが、味は結構なものですよ』
って言われて頂いたのよ」
「ふーん。でも、だからって千鶴姉が料理しなくてもいいじゃん。
ったく、耕一がいるとすぐ張り切るんだから・・・」
梓が、溜め息をつきながら言うと、千鶴さんの顔はみるみる真っ赤に染まった。
「そんなことありませんっ。今日はたまたま早く帰れたから・・・」
梓の言葉に否定する千鶴さん。
しかし、真っ赤の千鶴さんが何を言っても説得力がなかった。
でも、そんな千鶴さんがとても可愛い。
「でもさー、せっかくの松茸が、飢えた鬼でも跨いで通るような無残な残骸にしたくないからな・・・。やっぱり私が――」
と、梓がそこまで言いかけた時、急に背筋がゾクッとした。
台所の温度が3度ほど下がったような気がする・・・。
「ひっ!」
そして、梓の声にならない短い叫び。
「あ・ず・さ・ちゃん? 残・骸・が・な・ぁ・に?」
「い、い、いえ・・・あ、あの、あの・・・あ、あ、あたしは残骸にはなりたくありません・・・(涙)」
「そう・・・良い子ね・・・」
冷たい目で梓を見る千鶴さん。
まったく、いつもながら・・・。
「どうしたの? 耕一お兄ちゃん?」
そんな騒ぎを聞きつけ、楓ちゃんと初音ちゃんがやって来た。
「今日は松茸♪ わーい♪ わーい♪」
経緯を言うと、はしゃいで喜ぶ初音ちゃん。
「・・・」
楓ちゃんも目を細めて嬉しそうにしている。
うん、2人とも可愛いな。
「だけど、今日の料理は千鶴姉が作るんだって。ふぅ・・・」
ところが、溜め息と同時に放った梓の一言で、2人とも一瞬にして凍り付いてしまう。
「えっ!?」
「・・・」
と、固まった楓ちゃんと初音ちゃん。
「・・・」
そして、それを見て無言の千鶴さん。
「・・・」
そんな俺と梓も無言になってしまった。
・・・そうだよな。
俺もその気持ちは判る。
何せ、千鶴さんの料理だし。
「でも、この間作ってくれたリゾットとても美味しかったよね?」
暫く沈黙が訪れたその場をフォローしたのは初音ちゃんだった。
やっぱ、優しいな。この子は・・・。
思わず、ギュッと抱きしめたいよ。
「そ、そうよ。私、キノコ料理得意なんだから!」
初音ちゃんの言葉に、急に千鶴さんが元気になる。
「でも、あれ食べた後覚えてないんだよな。なんか『よよよっ・・・』とか言ってたような気がするんだけど・・・」
「わたし、喉が、ガラガラになってました・・・」
「私は、あまり記憶が・・・」
「あなた達の気のせいよ。ねぇ、こ・う・い・ち・さ・ん?(ニッコリ)」
「えっ? そ、そうですね・・・(汗)」
何か、千鶴さん恐い・・・。
・・・。
・・・。
結局、千鶴さんに料理を任せる事となり、俺と梓、楓ちゃん、初音ちゃんの4人でUNOをする事になった。
「はい、耕一お兄ちゃんの番だよ」
「おっし、梓、これでも喰らえ!」
「くっそー、DrawFourかよー。チクショー! 耕一のくせに!」
「けっけっけ、ざまーみろ!」
「て、てめぇ〜!!」
「もう! 耕一お兄ちゃんも梓お姉ちゃんもケンカしちゃダメだよ・・・って、あれ? 今、勝手口の開く音しなかった?」
そう言って、俺達のケンカを制しながら初音ちゃんが言う。
「私も聞こえたような・・・・」
楓ちゃんも初音ちゃんに同意する。
「千鶴さんが外に出たのかな? 呼んでみようか?」
そう言うと、3人ともコクリと頷く。
「千鶴さーん」
台所に呼びかけるが返事がない。
「千鶴さーん!」
もう一度、今度は少々大きめに呼んでみる。
すると、キィーと戸の開く音。
「耕一さん? 呼びました?」
そして、扉越しに千鶴さんの声がした。
「千鶴さん、今、外に出ました? 何か足りない物あったら言ってよ、俺が買ってくるから」
「え? いえ、何でもありませ〜ん。もうちょっとで出来ますから、少し待っていて下さいね〜」
「・・・だとさ。鈍亀姉のことだから、またのんびりやってんのさ」
そだな。
ま、いいか。それより勝負の続きと・・・。
・・・。
・・・。
むう・・・強い。
単純で考えてる事がすぐ顔に出る梓は置いといて、天性の勝負勘があるとしか思えない初音ちゃん、
無表情で着々と相手を分析している楓ちゃん。
2人とも手強い。
『UNO』を言って1番でリーチをかけた俺も何も出来ず、さっきからずっとカードを引く始末。
「やったぁ♪ あがり〜♪」
そう言って、あがったのは初音ちゃん。
やっぱり強いな・・・。
「あがりました・・・・」
と、続けて楓ちゃん。
ゆっくりと手札のカードを捨てる。
「やすが、2人とも。強いね〜」
「えへへ〜」
「くそぅ〜、楓もか〜。後は耕一だけ・・・。よりによって耕一と1対1とは・・・
「そりゃ、どーゆー意味だ? お前如きに負けるわけないだろ!?」
「言ったな!? 絶対に勝つ!!」
――結局、俺が勝利を手にして、梓の負けで終った。
「くっ・・・」
今にも爆発しそうな梓。
どうやら、俺に負けたのが相当悔しいらしい。
言葉にならない様子だ。
「あ、梓お姉ちゃん、これはゲームだから・・・」
「・・・」
しかし、梓は答えない。
「梓お姉ちゃ〜ん・・・」
「・・・ま、まぁ、ゲームだもんね。は、はははは・・・。」
しかし、梓のセリフとは裏腹に、目は笑っていなかった。
「さぁさぁ、出来ましたよ。みんな手伝って頂戴♪」
そんなとき、ジャストタイミングと言わんばかりに、満面の笑みを浮かべた千鶴さんが、台所から顔を覗かせた。
「ささっ、熱いうちに食べましょう」
お茶碗に松茸ご飯をよそりながら、妙に明るい千鶴さん。
「おおっ。美味しそうだね!」
でも、なんかあやしい気がする・・・。
「へぇー、千鶴姉の料理にしてはまともだぁ・・・」
「・・・コクコク」
「わぁ、松茸のいい香り。ねぇ早く食べようよ」
「ま、まて、初音。匂いに騙されるな。問題は味だ。この間のタマみたいにコロリと逝く羽目になるぞ!」
「こら、梓! コロリとはなによ! あれはただ単に不幸な事故でタマの体調が偶々・・・。
それに、タマは死んでいないでしょう!?」
「判った、こうしよう。作った人に敬意を表して・・・千鶴姉からどうぞ!」
千鶴さんの言い訳も聞かず、梓が言う。
「そ、そうだよね! 千鶴お姉ちゃん頑張ったんだから、一番先に食べてよ」
「・・・コクコク」
そして、楓ちゃんと初音ちゃんも頷く。
「そ、そんなに・・・私の料理が食べたくないの・・・クスン。いいわよ。こうなったら松茸一人占めよ!!」
悲しそうな顔で千鶴さんは、松茸ご飯に箸をつけた。
そんな千鶴さんの行方を見守る俺達4人。
「・・・」
無言の千鶴さん。
「ほーらみろ、やっぱり――」
やっぱり前回と同じ空気が部屋を漂い出し、梓が口を開いたその時。
「おいっし〜〜〜〜〜いぃ!!」
いつもより1オクターブ高い千鶴さんの声。
「この間のリゾットなんて問題外よ」
そうかな?
まぁ、問題外以前にあのリゾットは料理にカウントされるものではないと思うけど・・・。
「千鶴お姉ちゃん、本当に美味しそう。私も食べる!」
初音ちゃんも茶碗を手に取り、食べ始めた。
「わぁ! すっごく、おいし〜。梓お姉ちゃんも楓お姉ちゃんも耕一お兄ちゃんも、冷めないうちに食べたほうがいいよ〜」
「初音がそういうなら大丈夫だな。よし、いただきまーす!」
梓もいそいそ食べ出す。
「うおっ! マジいけるよこれ! 千鶴姉見直したぜ!」
「おいしい・・・」
目をキラキラさせて楓ちゃん・・・。
ありゃ、もう半分になってる。
「でしょでしょでしょ〜」
「お兄ちゃん、食べないの?」
「そうだよ、耕一。食べたほうがいいぞ」
「おいしいですよ・・・」
うーん。
でも何か引っ掛かる・・・。
エルクゥの勘か?
でも、確かに松茸の香り。
それに、千鶴さんがちょっと悲しそうな顔して俺を見てる・・・。
そんな目で見られたら・・・。
「そ、そうだね、いただきまーす」
そっと口元に運んだお茶碗の中身をじっと凝視する。
異常は、特に無い・・・。
いや! ちょっと待て!
妙に形の歪な松茸が混じっているぞ!?
何か、見覚えのあるような・・・?
・・・。
ああっ、これ!
「ちょちょちょ、ちょっと千鶴さん!!」
他の3人の視線をよそに、千鶴さんを台所に引っ張って行く。
「何ですか? 耕一さん」
「あの〜、ひょっとして、えーと・・・間違えたらゴメン。もしかしてコレは、その辺で採ってきた茸じゃないですよね?」
そう言って、口に入れかけたキノコのかけらを見せる。
「酷い! 私を疑っているんですか!?」
千鶴さんは『ぷぅっ』と膨れてしまう。
でも、怒った顔がまた可愛い。
「ゴメン、ゴメン。どうも見覚えのある茸が混じっているような気がしたから・・・」
すると、千鶴さんはちょっとピクッとして、頬を赤らめた。
「ば、ばれちゃいました? じ、実は作っている時、松茸がちょっと足りない気がしてきて・・・。
それで、庭に生えてるやつをちょいちょいと・・・でも今日は大丈夫。
ほ、ほらっ、ちゃんとキノコ図鑑見て作りましたから。ここ、ここです! ね? 書いてあるでしょ?」
千鶴さんは、そう言いながら図鑑を俺に見せてくれた。
「なになに、えーと『セイカクハンテンアカダケ。セイカクハンテンダケよりも毒素が強く、その毒素により少々赤みがあるキノコ。
有毒だが有毒成分が旨み成分であるイノシン酸に極めて近い構造をしており、食べると非常に美味。
成人なら大きい物、1本程度食べても中毒しない――』」
「ね? 今日は、5人で3本くらいだから全然大丈夫でしょ? 耕一さんも安心して食べてください♪」
「ちょ、ちょっと待って。次のページに跨いで書いてあるけど・・・。
えーと『但し、他の種類の茸類と一緒に食べると、毒性が強まることがあるので食用には注意を要する――』」
「・・・」
「・・・」
そして、暫くの沈黙。
「はははは・・・。ま、まさかね。そうそうコメディみたいなオチは無いよね・・・」
「そうですよ。ふふふふふふっ・・・」
2人してどこか引き攣ったような笑い。
そして――。
どんがらがっしゃぁぁ〜〜ん!!!
「うらぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!!
また、飯ん中に何か入れやがったな〜〜!! あの偽善貧乳野郎ぁ〜〜!!」
「おろおろ・・・。そんな乱暴な事を仰られては、
私、悲しくなってしまいますぅ・・・。よよよよ・・・」
「きゃはぁ〜♪ 初音いけてるぅ☆☆ チョーのりのりぃ♪
わったしも一緒にやってみるですぅ〜ってゆーかぁ〜♪」
「・・・」
その声を聞いて、ジッと千鶴さんを見つめる俺。
「・・・てへっ、またやっちゃいましたぁ♪」
そして、千鶴さんはペロっと舌を出した――。
ちなみに、3人が治ったのは、俺が帰った2日後の事だった――。
さすが、強力版・・・。
おわり
あとがき
どうも、ぴろりなのだ。
雨音しゃん、5000HITおめでとうなのデス〜♪
今回、どんなのを書こうか悩みに悩みまくり、久々の痕SSデス。
本当は、Kanonっていう案もあったのですが・・・。
・・・で、痕SS、ちょっとスタンダードにしてみました♪
でも、日常茶飯事で千鶴さんのキノコ料理ってなったら、身体が持つのか・・・?(笑)
多分、大丈夫でしょうね・・・。
それにしても、もう5000ですね〜。
早いです〜。
10000HITまで後少し!
頑張れ〜ですぅ♪
ではでは〜
小説作成日 2001/05/16