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『アルクェイド、メガネをかける』





 いつも通りの午後。
 かってしったるなんとやら……俺とアルクェイドがつき合い始めてもうだいぶたつが、いまや彼女の家は俺にとっての第二の我が家となっていた。
「アルクェイド〜。居るかぁ〜」
「う〜ん〜」
「……おまえ」
 合い鍵を使い中へと入ってきてみると、アルクェイドはベットに横たわりながらゲームをしていた。
「なんだ、GBA……しかもマリオかよ」
「おもしろいね、これ。小難しくないシンプルな操作だけど、アクション性高いし。簡単から激ムズまでいろんな面があって、しかも謎解き要素も多い。ストーリー性はともかく達成感が今一つなのが残念だけど、でもこれほど完成したゲームは他にちょっと類を見ないわ」
「げっ! レインボーロード制覇してやがる! おまえなぁ……一昨日の買ったのに、なんでここまで進んでるんだよ」
「…………」
「…………」
「…………」
「……まさかおまえ……」
「えへっ。寝るの忘れちゃった♪」
「こぉの……おばかぁぁぁぁぁぁっ!!」
「だってぇ、おもしろいんだもん!」
 それに、真祖は基本的に睡眠を必要としないからねぇと、笑うアルクェイド。
「ぐーぐー昼まで寝てるときもあるくせに。よく言うよ」
「あれはだって、志貴があんまり疲れさせるからだよ……」
「……おまえなぁ」
 頬をピンクに染めながらそんなことを言われてしまっては、志貴も平静ではいられない。
 そういう極萌えな表情するなよぅ。
 自分の頬がアルクェイド同様に染まっていくのを感じ、志貴はそれを隠すように横を向いた。
「と、とにかく! とりあえず今日の所はゲームは終了しなさい!」
「う〜、もうちょっとだったのにぃ」
「レインボーロード制覇しといて、なにがもうちょっとなんだよったく」
 ぼやきながら、志貴はベッドの周りを見渡した。つい一昨日片付けたばかりだというのに、すでにそこにはゲーム機やコントローラー、周辺機器、攻略雑誌等々が床を埋め尽くさんばかりに散らばっている。
 これじゃまるでゲームオタクの家みたいじゃないか。
「ちょっとは整理整頓しろよ」
「ん〜……どこに何があるか、分かるよ?」
 整理整頓をしない人間は多くいるが、その中には他人から見ると何処に何があるのかさっぱりでも、本人は部屋の中にある全ての物の位置を把握しているという奇妙な性質を持った人間が居る。
 どうやらアルクェイドもそのタイプのようだ。
 ちなみに、悪友の乾有彦もそうだ。
「はぁ、それにしたって、これじゃ足の踏み場もありゃしない」
「気にしない、気にしない……ん?」
「どうした?」
「ん……これは……」
 どうかしたのか……志貴は再び聞こうとしてそれが出来なかった。
 なぜならいつの間にか、アルクェイドがこちらに近寄ってきていて、しかもあたりを警戒しているのだから。
 先ほどまでの気の抜けた、だらけた雰囲気ではない。
 凛とした、刃のような瞳。それは紛れもなく、アルクェイドが戦闘態勢に移行した事を示している。
「志貴、気をつけて」
「敵か?」
「わからない。でも、やっかいよ……まったく気配を感じないもの」
「確かに、気配は感じないな……」
 真祖であるアルクェイド、そして人外の化け物に対しては鋭敏に反応する七夜の血をもった志貴。この二人から完全に気配を隠すなどと言うことは、そんじょそこらのレベルでは絶対に出来ないことだ。
「魔術? いえ、結界かしら? ……視界が霞むなんて初めてだわ」
「………………ん? 視界が霞む?」
「えぇ、視界がぼんやりと……って、志貴、あなたは大丈夫なの?」
「……」
「どういう事かしら? あたしを限定している?」
「……ちょっと待て、アルクェイド」
 緊張し、なおも警戒し続けるアルクェイドを静止し、志貴は……壁に掛けてあったカレンダーを指さした。
「おい、アルクェイド。この文字読めるか?」
「え? ……ううん。視界が霞んでて上手く読めないよ」
「はぁ……分かった」
「どうしたの? 志貴」
「おまえな、目が悪くなったんだよ」
「目が悪く……って病気!? そんな、目をやられたなんて……それじゃあまともに戦え無いじゃない。ごめんね、志貴。私もうダメみたい。最後に……私は、どうせ殺されるならあなたに殺されたい」
「かってに感動的なシーンにしない! 目が悪くなったっていうのは、つまり『近視』になったって事だ」
「……近視?」
「そう。おまえさぁ、最近ゲームばっかりしてただろ? しかも部屋が暗かったり、ゲーム画面に目を近づけてたり……そのせいで視力が落ちたんだよ」
「そんなぁっ!」
 まさかこの私が……といった表情を見せるアルクェイド。
 たしかに、真祖であるアルクェイドが近視になるなんて、あからさまに間抜けだ。
「これって治らないの?」
「治らないことはないらしい……けど、現在ではほとんど不可能に近いのも事実だな。とにかく、最も簡単な手段としては、眼鏡をかけることがある」
「えぇ〜! メガネぇ〜!」
「……なんか、そんな露骨に嫌がられると、眼鏡をかけている俺としては苛立ちを禁じ得ないのだけどな」
「あ、あはっ♪ ごめんごめん」
「まぁたしかにメガネは不便だ。鼻にカタはつくし、キスしようとするとぶつけちゃうし、見た目ほど目を守る効果も高くないし、ラーメンなどを食べると曇って見えなくなるし……」
「あ、それ困るなぁ……」
 そこに反応するのは間違っている。
「だがな、コンタクトよりは絶対にましだ。コンタクトなんて、目が痛くなるし、すぐ取れてどっか行っちゃうし、ばい菌怖いし、それになんか……騙しが入ってるって感じだろ!? だって、目が悪い癖に自分は目が悪くないんですよ〜って見せかけてるんだぞ!? あんなの胸パッドと一緒だ!!」
「ごめん。その感覚はちょっとわかんない」
 熱弁を振るう志貴に対し、アルクェイドはすこしひきつった顔を見せた。
「とにかく、アルクェイドにはメガネをかけてもらう」
「う〜……でも、しかたないわね」
「それじゃ、今すぐ眼鏡屋へ行こう」
 というわけで、しぶるアルクェイドを引っ張るようにして志貴は街に出たのだった。
 



「眼鏡っていっても、色々あるんだね〜」
「おう、俺もビックリだ……」
 某大型眼鏡店にやってきた二人は、そのあまりの種類に圧倒されていた。
 とりあえず店員に言って、視力検査をしてもらい、0.5という結果がでた後なのだが……そこからが一番大変だった。
 なにせ、レンズの種類からフレームの形、色など、様々な選択肢があったのだ。
「志貴、見て見て! ピンクのなんてあるのね〜」
「ピンクは良いがラメが入ってるのはやめろよぅ」
 そんなの普段からしてたらちょっとオバカちゃんです。
「あ〜、こんなのも有るわよ! ほら、逆三角形!」
「女教師プレイに使えそうだなぁ」
 超ミニのスカートはいて『金髪美人教師の個人授業』……ってかなり萌えるなぁ♪
 でも逆三角形眼鏡の女教師像はちょっと古い。
「なに、コレ。鼻の部分にカバー?」
「なんで鼻メガネなんて売ってんだよ……」
 買う奴いるのか?
「わっ、わっ! このフレームすごく軽い!」
「水に浮くって奴だろ? って、浮いてどうする」
 しかも高ぇっ!?
 よくよく見てみると、レンズにしろフレームにしろかなり高い。
 メガネって何千円で買えるような代物だと思っていた志貴は思わず……
(先生、ありがとう)
 なんて心の中で感謝したのだった。
 いや、アオアオにお礼を言うのは間違っている。なにせそれは盗品なのだから。
「形状記憶? なにそれ」
「曲がっても元に戻るって奴だ。あーー! 曲げるな! オマエが曲げたら千切れるだろうが!」
 平然とチャレンジしようとするアルクェイドを慌てて止める志貴。
 曲がっても元に戻ると入っても、壊れたら元には戻らないのだ。


 なんて事を約三十分ほど続けていた。
「決まらないね……」
「とりあえず多少高くついても耐久性の高い奴のほうが良いだろ? レンズのほうはキズのつきにくい奴で……後はフレームだけど、どうする?」
「む〜ん」
 子犬みたいに唸りながら店内をぐるぐると歩き回るアルクェイド。
 結構優柔不断のようだった。
 だが、ふと思う。
 彼女のこれまでの人生で「迷う」という行為はどれほど有ったのだろうか?
 長い長い……気の遠くなるくらい長い人生の中ですら、きっとほとんど無かったのではないだろうか。
 戦うことだけを目的とされたアルクェイド・ブリュンスタッドは、おそらく迷うことなど許されなかったのだろう。
「そう考えると、この時間も尊いものだと思えてくるな……」
「なんか言った〜?」
「なにも。さっさと選べよ」
 なんてひねくれたことを言ってしまう自分に、思わず苦笑する志貴。
 アルクェイドは平和な生き方が上手く出来ない。それはまるで子供だ。
 だけどきっと自分も大人じゃない。
「う〜ん……コレ」
「ドレ?」
 満を持してアルクェイドが見せたのは……黒いごく普通の型のフレームだった。
「なんでコレなんだよ?」
「だって……」
 答える前にアルクェイドはそのフレームをかけてみせた。
 レンズが入っていなくて、値札がぶら下がっているそれはちょっとお間抜けだった。
 だけど、すぐに気づく。
「あ――――……」
「ほら、これで志貴とお揃い」
 並んで鏡を覗き込むと、そこには同じ形のメガネをかけた二人が居た。
 顔の造形はまったく違うのに、そこだけでも一緒だと妙に似ている二人のような感覚がした。
「コレが良い♪」
「そ、そうか……。じゃそれにしよう」
 あんまり嬉しそうに言うものだから、迂闊にも思いっきり顔を赤らめてしまった。
 なんでコイツはこんなにも無防備な笑顔を見せるのだろうか。
 それはきっと……大人じゃないからだな。なんて、苦笑してみる。
「すみませ〜ん、このフレームとあのレンズで……」
「はい。えっと……2万5千円ですね」
 高あぁッ!
 やっぱりとんでもなく高い。
(だけどまぁ……)
 さっきの笑顔を見てしまうと、仕方ないかなって思えてくる。
 あの笑顔のことを思うと、2万5千円くらい……どうってことないってことは無いけど、なんとか我慢できる。
 志貴はせっかく重くなっていた財布を95%ほど軽くする決心をした。
 



「えへ〜♪ どう、似合う〜?」
 そんなこと聞くなコンチキショウ……。
 二人は帰り道、公園を歩いているところだった。
 あの後、メガネは数日掛かるものかと思っていたら意外にもその場でものの十分ほどで仕上がった。
 結果、アルクェイドはそのまま掛けて帰って来ていたのだった。
 かけなれないソレにちょっと困惑しているようだったが、まぁそれは結局慣れだ。
 何年も掛けていれば元から身体の一部だったみたいに気にならなくなってしまう。
「ねぇっ! ちゃんと答えなさいよ〜」
 似合ってるから買ったんじゃねェか、と言いたいところだが、素直に口に出来ないお年頃なのだ。
 志貴は無視して帰路を急いだ。
「ねぇってば!」
 だがまわりこんだアルクェイドが、志貴の行く手に立ちふさがった。
 む〜、と顔を膨らませて。コレはきっと答えるまで退いてくれそうには無い。
「わかった。言うよ、言いますよ」
「ヨロシイ♪」
「すごく似合って――――」
「なにしてるんですか、アナタ達は」
「おわっ!」
「うにゃ!」
 唐突に登場したシエル先輩ことカレージャンキー。
「逆です!」
 ……カレージャンキーは否定しないらしい。
「シエル先輩……どうしてここに?」
「たまたま通りかかっただけです。それより、アナタ達はこんな公衆の面前で何をしようとしてたんですか」
「べ、別に何も〜。なぁアルクェイド?」
「そ、そうよ〜。何もしてないわよ、シエル」
「なんか怪しい……ん? アルクェイド……アナタ、なんで眼鏡をしているんですか?」
 不信そうに尋ねるシエル。
 まぁあのアルクェイドがメガネなんてかけてるんだから、不信に思うのは仕方ないわな。
 だがその問いかけを当の本人はちょっと違う意味に取ったようで……
「ふふ〜ん♪ 気になる? なるわよね〜。なにせアナタの数少ない属性を私が取っちゃったんだから。眼鏡が二人も居ればもうあなたの魅力なんて無いに等しいわ! あなたはただの地味なア○ル――――」

 ズドンッ!

「不意打ちカッコワルイ!」
「黙りなさい!」
 黒鍵を降りまわして穴シエルが吼える。
 怒っちゃ駄目だよ。それがアンタの魅力なんだから♪
「だいたい、アナタ……なんでメガネなんか掛ける必要があるんですか? 真祖なんだから、恒常性があるでしょう?」
「は?」
「世界から直接エネルギーを得てるあなたは、常にその存在を維持しようという力が働いているんですから。どんなキズも障害も放っておいたら治るじゃないですか。
 視力の低下……一般的に眼球内の筋肉疲労ですけど……その程度なら半日寝てれば治るんじゃないですか?」
「あぅ……」
 そう言えば、十七分割されても次の日には治ってたよな……。
 なんだか恐ろしい気分で、志貴はアルクェイドの顔を覗き込んだ。 
「アルクェイド……さん?」
「あは……あはは……」
「オイ。笑うか? そこで」
「あはは〜、ゴメン。忘れてた♪」
 とってもビューティフルでキュートな笑顔。
 お子ちゃまの笑顔。
 だけど――――

 ズバムッ

 とりあえず、メガネごと一刀両断にしてみました♪




 その後、志貴から二週間のゲーム禁止令がアルクェイドに言い渡されたのは、言うまでも無い。



 
終わり






あとがき


 なんだかんだ言って、雨音ってあんまり月姫SS書いてないんですよねぇ。
 月姫好きなんだけど、どうしてなんでしょう?
 証拠に、書きかけで転がっているSSなら山ほど有ります(ぉ
 でも完成せず……なぜに。

 ちなみに、雨音はあんまりメガネ属性ではありませんが、メガネ娘は好きです。
 それも、所謂古いタイプの属性……メガネをはずすと美人などの常にメガネをかけているキャラ。
 ではなく、普段はメガネをかけていないんだけど、授業のときなどにメガネをかけるっていうのが好きなのです♪
 ちなみに、そのキャラはクールなほうがモアベター。
 月姫ですと秋葉あたりに。
 KANONだと美坂香里嬢が良い感じです♪



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