「散歩」





 うだる暑さもひとしきり。

 居間では、往人と観鈴がいつもよりやや遅めの夕食を終え、食後の満腹感を楽しんでいた。
 のんびりとした空気の中、寝転がってテレビを見ている往人と、傍らには困った表情の観鈴。

 ブラウン管には・・・「剣○商売」。

「ねえ、往人さん」

「あ〜?」

 テレビから目を離すことなく、生返事だ。
 案の定、それ以降反応がない。

「うーん・・・そうだ。恐竜さん恐竜さん」

 パタパタと居間を去る、がすぐに戻ってきた。

「がおー」

 居間の入り口で一吠えする。その手には恐竜のぬいぐるみ。

「がおがおー」

 更にふた吠え。

 ・・・・・・・・・・・・。



『多対一とは卑怯千万。助太刀いたす』



 ・・・・・無視。


「いいなー。藤田ま○と」

 更に、無視。

「むー、がぶっ」

「なんだ?」

 足元を見ると恐竜が体当たりしている。
 観鈴が、がしがしとそれを押しつけてくる。

「なんだ観鈴。新手の嫌がらせか?」

「うー、がぶがぶがぶっ!!」

 噛みついているらしい。

「はいはい」

 ちょっと向けた首も、すぐにテレビに向かう。
 最早何をしても振り向きもしない。

 暫し恨めしそうににらんでいたが、少しづつ伏せ目がちになってくる。

「ねえ、往人さん」

「・・・・遊んで欲しいな」

「あとで」

「・・・・遊んで欲しいな」

「・・・・今良いところだから」

「・・・・遊んで欲しいな」

「・・・・・」

「・・・・遊んで欲しいな」




『こら、お○。そう拗ねるな』



 テレビから、藤田ま○との声が聞こえてくる。

「・・・・・わかった。これが終わったら散歩に行くから」

 準備しとけ、と渋々といった口調の往人。
 なんだかんだと言いながら、結局観鈴には甘い。
 本人もそれはわかっている。

「晴子に書き置きしとけよ。先に帰ってくるかもしれんから」

「うん!」

 嬉しそうに微笑むと、大きく大きくそう答えた。










 小さな街である。
 散歩といっても、目立って目的地にするような場所はない。

 しかし観鈴には当てがあるのか、しっかりした足取りで歩いていく。


 目的など無い。だから散歩。
 まあ、ああでも言わなきゃしつこいからな。


 観鈴の頑固な一面を知っている往人は、自分にそういい聞かせていた。
 とは言っても、まんざら悪い気もしない。たまにはこんな日も良いかなどと考えては苦笑する。

 外気は心地よかった。日頃に比べて室内もそれなりに涼しかったのだが、やはり外は違うらしい。

 二人は並んで、のんびりと夜道を歩いた。
 空には満天の星。鈴の音が降ってくるようなそんな夜。

「涼しいね」

「そうか? 俺は充分暑いぞ」

 はたはたと手を仰ぐ。
 
 言葉とは裏腹に、男は感じていた。
 透き通るような輝きが、上気した肌に染み入るよう。


 小さく伸びをする。

「何で浴衣なんか着てるんだ?」

「準備しろって言ったのは往人さんだよ」

 ぷーっと軽く頬を膨らませる。
 がやはり、にはは、と笑うと、両の袖口を掴んでくるりと一回りする。

「・・・・似合うかな?」

 薄手のピンクにアヤメが乱舞したその柄は、月明かりの下、淡い観鈴の髪に良く映えた。
 往人は、観鈴を上から下まで視線を動かすと、頬が上気するのを自覚した。

「まあ、変ではないな」

「にはは、褒められちった」

「往人さんも格好いいよ、そのTシャツ」

 いつもの黒いシャツだと見えないかもねー。
 そう観鈴は笑う。

「・・・・・勘弁してくれ」

 その柄は、観鈴お気に入りの怪獣のモノだった。











 ぶらぶらと歩くこと30分ほど。小さな小川の所にやってきた。

 小さな石造りの橋に二つの人影。
 欄干に腰を落ち着ける。


「いないなー」

「なにが?」

「秘密」


 万事に微笑む観鈴。
 往人にはそれが、儚くて、頼りなくて。


「お母さんも一緒なら良かったな・・・」

「五月蠅くなくて結構だ」

 見上げたまま、嘯く。

「にはは」








「友達・・・・できたか」

 その声は優しい。

「うん、トランプもいっぱいやれる」

「よかったな」

 ぽん。

 男の大きな手が、小さな頭を撫でる。

「・・・・でも、よくわからない」

「?」

「今までいなかったから・・・・お友達」

 ぽかっ。

「が、がお・・・」

 ぽかっ。

「ううっ。れんぞく・・・」

 頭を抱えて抗議の声を上げる。

「嘘はいかんぞ」

 明後日の方を向く。

「・・・・嘘じゃないよ」

 観鈴は、俯いていた。



 ・・・・リーン・・・

 澄んだ虫の音は、細く綺麗で・・・・


 でも。

「嘘だ」

 ほんのりと温かい。

「じゃなきゃ、俺はなんだ?」

「・・・・・・・」

 ・・・・・・・・。

「・・・・・もういい」

 小さくため息。

 風は優しいまま、女の浴衣を凪ぐ。
 短い髪は、俯いた顔を上げた。

「大事な人だよ・・・・。いっぱいいっぱい勇気をくれる・・・」

 強く、はっきりと。

「恋人・・・・かな。にはは」

 明るい月の下、

「・・・・・」

 またしても男は、視線を逸らした。










 夜は、十二時を回った。










 後は、待つだけだった。

 何もかもが上手くいかなかった、これまで。
 何かが終わった。今

 それはきっと姿を現す・・・・。

「いた・・・・・!」

 水面。小川のせせらぎが小さくなった気がした。

 たった一つだけ。
 黄色い、淡く頼りない光が、音もなく生まれていた。

 そう。ほたる。


「きれい・・・」

「ああ、でも」










「一匹だね」











 一人でいることを選ぶ者はいる。
 でも、進んで望むことの寂しさは誰よりも知っている。

 暗闇の中、ふらふらと舞うホタルは、その存在を主張しながらも・・・・。

 あまりにも綺麗で・・・・孤独だった。

 きっとどこかにいるはず。

 その寂しさを消してくれる。

 出てきて。

 想いを、知って。

 きっと、いるから。











「一匹だな」










 いるんだろう?

 俺は知ってる。

 ただそれは、あまりに当たり前で、でも、怖いこと。

 その意味も知らずに、でもそれはお前達にしかできないこと。

 出てこい。

 そう思っても思わなくても。

 お前達には出来るんだ。




























                                  ふっ

            ふっ



                         ふっ


ふっ




                ふっ


                                        ふっ
                                    ふっ






   ふっ




                        ふっ



                                   ふっ
ふっ










「わあ・・・・・・・!」

 そこには先ほどの空に似た、音ではなく温度が伝わってきそうな光の群。

 寄り添い、ほんのりとした・・・
 ゆっくりと、ひっそりと、でもはっきりと音も立てずにその数を増していく。

 水面に、草木に、明かりを灯してゆく。

「・・・・よかった」

「呼び合ってるみたいだな」

「優しい・・・・光」

 男は女の肩を抱き寄せ、女は男の肩に頭を寄せる。

「よかった・・・」

 ただ、それだけの言葉を・・・・何度も呟く。

「・・・・・・・・」

 更に強く、抱き寄せた。






 どれくらい経っただろうか。

 視界の隅に、強い光が入った。



 ほたるの光に誘われるように、大きな音を立てながら、強い光を放ちながら、動きだけはふらふらと近づいてくる。

「お母さんだ・・・・」

「でっかいホタルだな」

 しかも五月蠅い・・・・。

 胸の内でそう呟く。

“五月蠅くて・・・それ以上に優しいホタル”

 腰掛けていた欄干から身を起こすと、二人はその明かりに手を振った。






「良くここがわかったな」

 バイクを止め、ヘルメットをはずすと、淡い色の髪が現れた。

「書き置きがこんなんやったからな」



『往人さんとホタルを見に行ってきます』

 横にはVサインをした観鈴の似顔絵。




「近所でホタルが見れんの、ここだけやから」

「割に遅かったな。仕事か?」

「いんや」

 そのまま、持っていた鞄を漁る。

「これをやろう思おてな、コンビニまで行って来た」

「花火!」

「いろいろ準備してたらすっかり遅れた・・・・いたか、ホタル?」

「・・・ぶいっ。にはは」

 背中に団扇を差し込んで、満面の笑みを浮かべる。






「んじゃ、帰ろうか」








 終わり







 後書き=言い訳(汗)

 ども、沙柳です。僕のHPで3000hitを踏んでいただき、ありがとうございます。

 頑張って観鈴ちんを書いてみましたが、如何でしょうか?

 観鈴は“死”という形でゲームが終わっていて、後日というモノを想像するのに難儀してしまいました。

 またこんな出来になってしまいましたが、読んでくだされば幸いです。

 でわでわ。