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ごった煮SS・とりとめのないストーリー2
『協調性に欠ける乙女達』中編
夜九時をまわっても、人の流れはまだ絶えなかった。
さすがにさっきまでよく見かけた小学生グループの姿は少なくなってきているものの、それ以上の年齢ともなるとこの時間でもまだまだ活動時間内なのだろう。
むしろ、小学生やその家族づれが居なくなった分だけ、カップルの姿が増え始めていることに、少女達三人は形容のし難い・・・というか、形容してしまうとなんともみっともない言葉になりそうだからあえて形容しないだけだが・・・苛立ちを感じていた。
この様子では、お祭り自体は10時までなのだが、あたりから人の姿が完全に消えるのは日付が変わってからになるだろう。
・・・さらに木々の奥に入っていけば、もっと遅くまで人の姿を確認できるだろうが・・・。
まぁ、そんなことは彼女たちには関係のないことだった。
三人は途中、綾香の要望で綿飴(意外と少女趣味だ)を購入しただけで、そのままほとんどノンストップでゴール地点の神社の境内にたどり着いた。
境内ではてっきり、櫓でも組んで盆踊りでもしているのかと思っていたのだが、実際には随分そっけない風景だった。参道同様に屋台がならび、その奥に社があり、おなじみの賽銭箱とどでかい鈴がぶら下がっているだけだ。お神籤でもやっているかとあたりを見渡してみるが、それらしい物はない。
「なんとうか・・・具体的に言うと、がっかりね」
「う゛・・・」
「味気なさ過ぎです。はっきりいって、がっかりですね」
「う゛う゛・・・」
綾香、秋葉両名のあからさまに失望した声の色を感じとり、地元代表である梓は身の縮こまる思いだった。
もともと、綾香達の期待過剰が問題ではある。こんな小さな町の小さな神社の小さなお祭りにド派手な演出などがあるわけない。これだけたくさんの屋台が並ぶことだけでもほとんど奇跡に近い状態なのだ。
だが、それはわかっていても、やはり地元の人間としては楽しんでもらいたいと思うもの。
二人の不評は梓にとって、ある程度予想していたこととはいえ、ショックだった。
「・・・さて、どうしましょうか?」
一人、へこんでいる梓のことなど気にもせず、秋葉は問いかけた。
本来の目的(つまり、兄と一緒に来るという事)を果たせない以上、秋葉的にはこれ以上この場所に居続ける理由もなかった。
綾香どうなのかしらないが、残念ながら秋葉にはこの庶民的なお祭りの雰囲気を楽しむという感覚はない。たしかに、小さな頃には随分あこがれた記憶があるが今となってはそれも過去の話だ。必要な物とそうでない物の境界をはっきりとさせる彼女にとって、お祭りというイベントそのものは後者の領域に位置づけられていた。
だから、秋葉としてはこのままUターンして、ホテルへと帰りたかったのだ。さらに欲を言うと、帰ってそのまま飲屋街へと進み、兄を見つけだし、あわよくば自分も一緒にお酒を・・・と考えていた。
しかし・・・そんな彼女の思惑を、綾香が否定した。
「せっかくだからさ、もうちょっと居ましょうよ」
なにが「せっかく」なのかはサッパリ分からなかったが、綾香はまだお祭りを楽しみたいらしい。
「もうちょっとと言っても・・・何か見る物があるんですか?」
「う〜ん・・・そういわれると困るけどね」
「見るべき物がないのなら、これ以上居ても意味がないでしょう・・・」
「う゛う゛う゛・・・あんまりはっきり『見るべき物がない』なんていわれると・・・梓ちん、ショック」
「・・・病気ですか?あなたは・・・」
秋葉のその冷徹な一言は、こんどこそ梓にとって致命傷となった。声もなく真っ白な灰になり果てる梓。
だが、当然の事ながら秋葉嬢はそんな事は欠片ほどにも・・・一ミクロンほどにも、気にしない。
「さぁ、もういいでしょう?早く帰りましょう」
「う〜・・・仕方ないわねぇ」
ブーブー言いながらも、やはり綾香本人もこれ以上ここにいても退屈になるだけだという事を知っているのだろう、本当に仕方なしといった感じだったが、来た道を引き返すことに同意した。
「ほら、梓ぁ。帰るわよぉ」
「そんなところで真っ白に燃え尽きてると、放って帰りますよ」
「う、う、うぅ・・・梓ちん、泣きそう・・・」
「泣きたいなら、お泣きなさい。泣きたいときに泣けない自分より、泣きたいときに泣ける自分を大切にすることです」
「あたしが言ってるのは、そういう事じゃ・・・って・・・おぉ?」
不意に、浴衣の袖を引っ張られ、梓は振り返った。
一瞬、さっきの男達かとも思ったのだが・・・違った。
「・・・えっと・・・何かな?」
梓の浴衣の袖を引っ張っていたもの・・・それは一人の少女だった。
歳の頃は6つか7つ。一目で心を奪う美しく長い黒髪。幼さのない、大人びていてどこか妖艶な・・・そんな瞳。漆黒色の浴衣は夜の闇のようで、触れることを拒みながら、しかしどこか人を誘って止まない。唯一、頭に着けられたピンク色の大きなリボンだけが、なんとも場違いで似合っていなかった。
梓は・・・その少女になにか厭な感じを受けていた。
母性的な部分を多く持つ・・・というかそれに強くあこがれる・・・梓は、子供に対しては特に優しくなる。
しかし、今目の前にいるこの少女には、優しくなれない。そんな、母性的を全てはねのける圧倒的な雰囲気が、この少女にはあるのだ。
ピクンッ・・・と、腕が振るえる。
息があがる。
今・・・自分は・・・どれだけ・・・
『鬼』の力を抑えられているだろうか・・・・・!?
・・・が、そんな梓の変化は全く気にした様子もなく、その少女はゆっくりと口を開き・・・そして突拍子もない台詞を吐いた。
「・・・ママ・・・」
「「「ぶふぅ〜〜〜〜〜〜っ!!」」」
梓も綾香も、さらには秋葉までもが、その一言に吐血・・・もちろん本当に血を吐いたのではなく、そういう仕草をしたということだ・・・した。
「な、な、なぁぁぁ〜〜〜!!」
「あ、梓!あんた、子供持ちだったのっ!!」
「その、その子供は、例の耕一さんの!?もうそんな所まで進んでたんですか!?」
「ち、違うわぃ!あたしはまだ処女よ!」
突然の「ママ」発言にひどく混乱しているのだろう。梓は自分が今とんでもない爆弾発言をしたことに気づいていない。
「あ、あのねぇ、お嬢ちゃん。あたしはあなたのママじゃ・・・」
「ママ・・・」
「やっぱりママって・・・梓!あなたすごいわよ!」
「梓さんは今年で18。この子はだいたい6、7歳。となると・・・12歳の時には産んでいたという事になりますね!」
「嘘!?っていうことはヤった(なんとも下世話・・・)のは11歳の時ってこと!?耕一さんってばロリコン〜!!」
「ちがぁぁぁぁぁぁう!!」
勝手にヒートアップしていく二人。混乱している梓には、それを止めることが出来なかった。
しかも、先ほどから大きな声ばかり出しているので、人が集まり始めている。完璧に失念していたが、そういえばここはお祭りの中だったのだ・・・。
「すごいわね、梓!あなた最高よ!!」
「子供・・・そんなに早く・・・?だったら、私も八年前に・・・」
「違う違う違う違う〜っ!!ほらっ!あなたからも何か言いなさいよ!このままだと、あたしがあなたのママになっちゃうのよ!?」
「・・・ママ・・・居なくなったの・・・」
「だから!あたしはママじゃなくて、居なくなってもっ・・・・・・・・・・あれ?」
・・・なにか、さらにとんでもない台詞が飛び出てきたような気がして、梓だけではなく、秋葉達も静止した。
聞き逃してはいけない。とても、とても重要な・・・というか重大な単語が、出てきたはずだ・・・。
「あの・・・もう一回・・・」
「・・・ママが・・・居なくなっちゃったの・・・」
今度こそ、全てが停止した。
先ほどまであれほど騒いでいた三人も、何事かと集まっていた野次馬達も、一瞬にして黙り込んだ。
しかも、そこへ少女が追い打ちをかける。
「男の人に、連れていかれちゃったの」
その一言は・・・致命的だった。
一瞬にして、さきほどまで集まっていた野次馬連中の半分以上が立ち去っていく。残った後半分の野次馬達も火の粉が飛んでこないように後ろへと少し下がった。
誰も、親切な人は居ないのか・・・梓は呆れた。だが、同時に仕方ないとも思っていた。
だって、自分も・・・あるいは同様の行動をとるかも知れないから。ただの迷子ならいくらでも付き合おう。確かに面倒ではあるがそのまま放って置くわけにもいかない。しかし、男に連れ去られたというのは、あまりにも・・・ひどい言い方になるが、正直な気持ち・・・面倒事すぎる。
しかもこの少女。母親がさらわれたにしては、やけに冷静すぎやしないだろうか?
先ほどの厭な感じも残っている。関わりたくないと言う気持ちの方が、今の梓の心の中では強かった。
しかし・・・
「母親が連れ去られたですって?大事件じゃない!」
そう、楽しそうに言い放ったのは当然の事ながら綾香だった。
まるで、「待ってました!」と言わんばかりに顔を輝かせ、すでに自分たちで解決する気満々のご様子だ。
「待ってください。確かにこれは大事件です。ですから、やはりここは警察へ通報すべきではありませんか?」
「えぇ〜。せっかくこんな楽しそうなことを・・・」
「楽しい、楽しくないの問題では無いと思いますけど?」
確かに、秋葉の方が正しい。これが誘拐事件なら下手に素人が手を出すのは危険すぎる。
プロに任せるのが常識だ。
「私は、こんな面倒くさいことに付き合うつもりはありませんから!」
・・・どうやら、常識、非常識の問題で話し合っていたのではなく、面倒か、面倒で無いかの問題で話し合っていたらしい・・・。
この二人は・・・なんというか、他人を心配すると言うことがないのだろうか?
梓はそう心配せずには要られない。
楽しそうだからと言う綾香と、面倒だからと言う秋葉。
この二人は・・・
「あんたらは、この子がかわいそうだからとか、心配だからとか、そういう考え方はしないのか・・・」
わずかな苛立ちを・・・何故苛立っているのか、彼女にもよく分からなかったが・・・含んだ声で、梓は呟いた。
だが、返ってきたのは、予想外にも笑い声だった。
「あはは。心配?かわいそう?」
「フフフッ。まさか、そんな事思うわけないでしょう?」
「なっ・・・」
嘲るような、その笑い。今まで、色々話してて自分勝手なところがあるとは思っていたがそれでも、気のいい連中だと思っていたのに・・・その感想がこの瞬間にガラガラと崩れ落ちた。
こいつらは・・・なんてことはない。
「ただの、人でなしだ・・・」
吐き出すような、そんな小さな声になってしまったと思う。大きな声でそれを叫ぶほどには、嫌いになれなかったから。
しかし、それが大きな声であろうと小さな声であろうと、聞こえていることには変わりない。
綾香達は、きょとんとした表情でうつむく梓を見つめた。
「・・・何言ってんのよ・・・人でないのは、その子の方でしょ」
「・・・ふぇ?」
「なに、間の抜けた声を出しているんですか。もしかして、気づいていなかったのかしら?」
「ど、どう言うこと?」
「だぁかぁらぁ!その子が人間じゃないって事よ!」
そう言って、ズビシっと梓の袖をつかんでいる少女を指さす綾香。
だが、そういわれても・・・
「人間にしか見えないぞ?」
「あのねぇ・・・人間の姿形をしているからって必ずしも人間だとは限らないの。自分達のこと、忘れてるんじゃないの?」
「梓さんは力はかなりの物なのに、結構鈍感なのですね。どんな姿をしていようと、血の匂いを嗅げばそれが人間かそうでないかくらいはわかります」
血の匂いといっても・・・梓の鼻には、周りの屋台から漂ってくるソースの香ばしい匂いや何かの甘い匂いしか感じ取れなかった。
「血の匂いでなくったって、気配で分かるでしょ?こんなとんでもない気配をもってる人間の子供がいてたまりますかってね」
「気配?たしかに、なんだか厭な感じがしたけど・・・」
「それが気配よ。なんだ、ちゃんと感じ取ってるんじゃない。鍛錬なしでその感度・・・さすがは鬼の血を引く者ねぇ」
うらやましいわぁ、と呑気な口調の綾香。
「で、でも・・・人間じゃないっていうんなら・・・こいつは何者なんだ?」
「さぁ?人間じゃないって事はわかるけど、その正体が何であるかは分からないわ」
「血の匂いから、人間の血が混ざっていない純血種・・・しかもかなり年月を重ねている古き種族のようですけどね」
そういって、少女に視線を向ける秋葉。その凍てつくような瞳に対し、少女はただ視線を返すだけで、何も答えなかった。
「で?あなたは何をたくらんでいるのかしら?」
「・・・・・」
「だんまりはあまり賢い対応とは言えません。どうして私たちに声をかけてきたのか・・・その理由が在るんでしょう?」
「・・・私では、近づけない」
「近づけない?」
「陣が布かれている・・・」
「陣・・・ですか?驚きましたね。それで?程度は・・・」
「純血種では全く手が出せない・・・」
「なるほど、それで私たちを選んだという訳ですか」
「あの〜・・・よくわかんないんですけど?」
少女の説明とも言えないような簡潔な説明に、納得しているのは秋葉一人だけだった。
他の二人は、なんの事を話しているのかさっぱり分からない。
「ふぅ・・・なにが分からないんですか?」
「何がって・・・全部だよ。そもそも、陣って?」
「陣というのは、分かりやすく言えば結界の事です。ただ、通常の結界とは違って「境界」ではなく、「領域」なのです」
「・・・ごめん。結界のことから説明して・・・」
「・・・結界というのはごく簡単に言うと、特定の条件を満たしていない者の出入りを拒む境界線の事です。その境界線に触れると結界の効果が発動し、物理的に弾かれたり、精神的に圧迫感を感じたり、または幻覚を見たりして、その境界線を越えることが出来ないようになっているのです。一方の「陣」ですが、これはそもそも結界とは使用目的が違います。陣は、出入りを拒まないんです」
「出入りを拒まないって・・・それじゃあ役に立たないんじゃないの?」
「いえ、そうではありません。むしろ逆なんですよ。「陣」は侵入者を防ぐためのものではなく、侵入者を迎撃するためのものなのです。お二人は「陣を布く」という言葉がを聞いたことはありませんか?」
「あるけど・・・」
NHKの大河浪漫とか見てると、古い戦のシーンでそういう言葉が使われている。また、歴史物のシミレーションゲームなどでも出てくる言葉だ。
「その言葉は本陣の場所を決め、兵を配置する・・・つまり戦の準備をするという意味です。それと同じなんですよ。「陣」は術者が敵を迎撃するために作り上げた、自分たちにとっては有利で、敵にとっては不利な「戦闘領域」なのです」
「なるほど・・・で?それがどうしてあたし達に関係してくるわけ?」
「そこまで説明しなければいけないのですか・・・。陣にしろ結界にしろ、それ自身には意志がありません。当然ですね、生物ではないんですから。ですから、敵と味方を見分ける「条件」を術者が設定してやらなければいけません。今回の場合その条件が「人間のみ味方」というものだったのでしょう。おかげで純血のバケモノであるコレ(と、少女を指さす)は迂闊に手を出すことができず、人間でありながら異能の血も混ざっている私たちに救援を求めてきたというわけです」
「なるほどねぇ・・・って、あたしは異能の血が流れてないからあんまり関係ない話か」
「そうですね。綾香さんには関係はありません。ですが、私や梓さんは多少の影響を受けるかも知れません。どのレベルまで影響を受けるかはその術者の腕しだいですが、普段通りの力が出ないことだけは間違い在りませんね」
「じゃあ、危ないんじゃないのか?」
「・・・どうしてですか?」
「あたし達は全力を出せないんだろ?もしもっと強いバケモンが居たとしたら・・・」
「はぁ・・・梓さんにはそこまで説明しなければいけないんですね・・・」
片手を頬に当て、もう疲れました、と言わんばかりにため息をつく秋葉。その・・・不本意だがちょっとだけ似合っている・・・仕草に苛立ちを感じつつも、事実情けないのは自分なので、梓としては反論する事も出来ず、ただ黒髪のお嬢様の丁寧な説明を期待して待つしかなかった。
「陣は、とにかく迎撃するためにあるのです。ですから、強い者を強いままで居させては意味がないでしょう?コレ(と、またもや少女を指す)が「近づけない」という程に、その陣は純血種を拒んでいるそうですから、化け物ならむしろ好都合です。その陣の効果を、大きく受けているはずですからね。むしろ恐れるべきはタダの人間、しかも複数だったときですけど・・・」
と、そこで秋葉は少女に視線を向けた。
「・・・違う。男は一人」
秋葉の疑問に対し少女は、ふるふると首を振って否定した。
そして、その後で一言付け足した。
「でも、人間じゃない」
「物の怪の類ですか?」
「まだ幼い造魔だった・・・」
造魔・・・その言葉通り作られた魔の事。主に人間が自分の使い魔として、あるいは守護魔(ガーディアン)として造り上げた物だ。
「使い魔ですか・・・だとしたら少し面倒かも知れませんね・・・」
「術士の匂いがしなかった・・・連結(リンク)が切れてる」
「野良ですか?・・・っ!?だとしたら、まさか!?」
驚愕し、少女に視線を向ける秋葉。その意図を読みとって、少女はうなずいた。
「なるほど・・・そういう事ですか・・・」
「あのさぁ・・・」
思案する秋葉を遮って、黙っていた綾香が口を開いた。
「そういう話はもういいじゃない?とにかく行ってみましょうよ」
どうやら、綾香はすでにやる気満々、爆発準備オッケーなご様子だ。
鼻息荒く・・・というわけではないが、少し昂揚しているのは傍目にも分かる。つくずく、こう言った荒事が大好きなのだろう・・・。
しかし、そんな綾香に冷水をかけるように、秋葉嬢の口からは冷たい一言が飛び出てきた。
「私は行きませんよ」
「えぇ〜っ!?」
「私は早く帰って、兄さんに説教してやらなければいけないのです!」
そう、断言した秋葉の顔は、本人は怒りの表情を浮かべて居るつもりなのだろうが、梓達にはなぜか妙に嬉しそうに見えた。
この歳で、すでにサドっ気たっぷりとは・・・侮れない。
「というわけで、私は帰らせていただきます。あ、いえ、別にあなた達が行くことを止めたりしませんので、どうぞご勝手に」
「秋葉は本当に行かないの?」
「ええ。行きません」
「はぁ・・・そりゃそうよね・・・こんな荒事は、あんたみたいなへなちょこおじょ〜様には無理な話よねぇ」
「ムッ!あなたは何を聞いていたんですか。私はただこんな面倒くさいことを・・・」
「はいはい。わかってるわよ。そういう理由を付けなきゃ、逃げられないものね」
ヘヘンと小馬鹿にした笑い。
もちろんあからさまな挑発なのだが、だからといってそんな綾香の仕草をプライドの高い秋葉嬢が見逃せるわけもなかった。
「言ってくれましたね。貧弱なただの人間の分際で・・・」
「あら、秋葉みたいな「バケモノ(強調)」を倒すのは、いつだって人間の仕事よ」
「ええ。確かにその通りです。バケモノはいつだって人間の小賢しさとその武器によって滅ぼされてきました。ですが、エクストリームなんていうゴッコ遊びなんかは恐れるに足りません」
「ゴッコ遊びですって・・・?」
「お、おい・・・」
なんだか、話がやばい方向へ向かっていることに気づき、慌てて梓が止めにはいる。
正直なところ、この二人が戦ったらどうなるのかは彼女も気になったが、だからといってこんな場所で始められたら・・・先ほどの人だかりはもういい加減居なくなってはいたが、だからといって人気が全くなくなったわけではないのだ。
「ルールのある殴り合いなんて所詮ゴッコ遊びです」
「へぇ言ってくれるじゃない。本当にゴッコ遊びか、その身体で試してみる?」
「お断りします。私はそんな子供のお遊びに付き合うつもりはありませんから。それに、綾香さんも「台本」がなければやりにくいでしょう?」
その一言は、決定的だった。
瞬間的に、綾香が全力で殺気を放つ。数々の場数を踏んで洗練されたその指向性の殺気は、気の弱い者なら失神してもおかしくないほど強烈だった。
しかしそれに怯えてひるむ秋葉ではない。その殺気を平然とした表情で受け止める。
変化と言えば、ただ髪の毛の色が一瞬にして朱へと変わっただけだ。
「ちょっとスト〜ップ!!!」
放っておけば本気で始めてしまいかねない二人の間に、梓は割り込んだ。
冗談ではない。もっと時と場所を考えてくれる奴らだと思っていたのに・・・。
「まったく。子供なんだから・・・」
「ム・・・梓さんに言われたくありませんね」
「そうね。梓に言われたくないわ」
「な、なによ、それ・・・」
「だいたい、あなたはどっちなんですか!?」
「そうよ。梓・・・あんたどっちなの!」
「どっちって・・・」
「行くのか・・・」
「行かないのか・・・」
「「どっち!?」」
「えぇっ!争奪戦っ!?」
梓の発言力が500マイナスされた。
「いや、どっちって言われても・・・」
「当然!こんな面倒なことには手を出しませんよね?こんなつまらない事、放っておけば良いんです。なに、造魔程度なら被害もたかが知れてますよ」
「なにを!こんな面白いことに手を出さないで生きてる価値あるの!?人生、どれだけ波瀾万丈に生きられたかでその価値が決まるのよ!」
随分暴論だなぁ・・・と、ため息をつきたい気分の梓だったが、詰め寄ってくる二人にその暇も与えられない。
「どっちなのよ!?」
さて、どっちかなぁ・・・。
梓本人にもよく分からなかった。
正直、面倒事は避けたい。しかし、目の前で起きているこの状況を放って置いても良いのだろうか?
少女・・・自分の浴衣の袖を握りしめ続けるこの少女は、たしかに人間じゃない。
嫌な感じもする。
だけど・・・母子の関係というのは人間かそうでないかで変わるものでは無いはずだ。
このまま放って置いて、もしこの少女の母親に何かあったら・・・
「・・・行こう」
「そんな・・・」
「やったぁ♪さすが梓ちゃんね♪」
「いや、別に荒事をする訳じゃなくて・・・ただ、とりあえず行ってみよう。ここに居ても状況が良くわかんないし、もし行ってみて荒事をせずにこの子の母親を助け出せるようならそれで良いし、荒事になったら・・・まぁそれはその時次第と言うことで・・・」
「・・・随分アバウトですね。結局あなたはどうしたいんです?」
「だから!問題なのはこの子の母親がさらわれたって事だろ!」
綾香と秋葉の会話にはまったく出てこなかったが、事の本質はそもそもここにあるのだ。
「さらっていった奴が、ハイどうぞって返してくれるとは思えないけど?」
「そんな事、行ってみなけりゃわかんないでしょ」
「絶対にあり得ないと思うんですけどね・・・」
「良いからっ!行くのっ!」
なんで自分がこんなに熱心になっているのか、いまいち自分でもよく分かっていなかったが・・・まぁ、そんなのはいつものことだ。
とりあえず、行ってみる。
それからの事は、それから考える。
それが梓のスタイルだ。
・・・ふと、視線を下げると、少女と目があった。
その瞳は、さきほどまでの冷たい物ではなく、どこか熱を感じる・・・別な意味でゾクリと嫌な感じを覚える、そんな瞳だった。
(なんか、かおりに見つめられてるみたいだ・・・)
自分に「必要以上」の好意をよせてくる後輩の顔を思い出し、梓は背筋に冷たい物を感じた。
ハハ・・・まさかね。
「さぁっ!行くわよ」
「はぁ・・・梓って結構ワガママよねぇ」
「まったくです」
「・・・行くわよぅ・・・」
自分を見つめる少女の瞳だけでなく、後ろから聞こえてくる二人のお嬢様の不平不満の声に、なんだか精神力を激しく削られつつ・・・梓は一行を引き連れて歩き出した・・・。
一方、そのころ鶴来屋に残った女達は・・・
「今頃秋葉様達はお祭りを楽しんでいる頃なんですねぇ♪」
「・・・・・・・」
「−−−浩之さんが居ないなら行っても意味がないです−−−だそうです」
「はぅ〜、ダイヤの11を止めてるのは誰ですかぁ〜」
「姉さんあたりが、怪しいです・・・」
「あはっ♪そういえばアルクェイドさんとシエルさんはどこへ行ったんでしょうねぇ〜(無視」
「・・・・・・・」
「−−−さっき、セバスチャンと一緒に一升瓶を山ほど抱えて出ていきました−−−だそうでです。どなたか存じませんが、早くダイヤを出してください。ゲームが進みません」
「はわわ〜!パス3です〜!負けたら脱衣ですか〜!?裸でホテルの廊下ダッシュですか〜!?」
「姉さんっ!!」
「あはは〜♪」
なんだか、とっても楽しそうだった。
中書き
「協調性に欠ける乙女達」中編です〜♪
さて、今回出てきた少女ですが・・・実はあるゲームのキャラなのです。
ヒントとしては・・・葉っぱ、鍵以外で、大手の会社のキャラです。
でわ、次は後編の、正真正銘のあとがきでおあいしましょう。
バイチュ〜♪(謎
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