op/


 失敗とは、なんだろう。
 私は、そのことをずっと考えていた。
 言葉そのものの意味で言うならば、「やりそこなうこと。しくじり。失策」など、簡単に説明可能な言葉だ。
 しかし、なにが「やりそこない」であるかなんて、果たして簡単に判断できることなのだろうか?
 チェスは、最後にキングを取るためにはあらゆる駒を犠牲にする。死に易い(相手にとって取りやすい)位置に配し、わざと取らせる。それは失敗ではないのだろうか?
 失敗ではない、そう多くの人が言うだろう。それはわざと取らせたのだ。勝つための策略なのだ、と。だが、素人にはそれをみたところで、分からない。玄人ですら、分からない。分からないから、その策に嵌るのだ。なのに、どうして失敗ではないと断言できるのか。
 それは……それが失敗でなかったかどうかは、結果が出てから判断されるからだ。結果が出て、それによって勝利を得られたとき、それは成功であるとされる。
 では、敗北すれば失敗なのか。
 失敗である、多くの人が言うだろう。敗北すればどんな策略も意味がない。結果が出なければどんな行動も失敗なのだ、と。だが、次に勝利したとしたらどうだろう? 過去の敗北を糧とし、次の対戦で勝利したとしたら、その前の敗北はどうなるのだろうか? 次に勝つための一手、策略でなかったと、判断できるのだろうか? その結果は、いったい何時出るのか。
 勝利すれば、失敗は無い。しかし敗北したとしても、失敗は無い。
 では、失敗はどこにあるのだろう?
 言葉の概念そのもので言うならば、失敗とは境界条件だ。つまり、成功を定義したときに残る補集合。成功ではないものの総称。
 しかし、成功をどうやって定義するのだろう?
 言葉の意味でなら「事業や計画を成し遂げること。目的を達すること」でり、概念で言うのなら、失敗を定義したときに残る補集合だ。
 ぐるぐると回る。
 私には、分からない。
 自分には、成功も失敗も無いのではないだろうか?
 それらを、観測する術は無いのではないだろうか?
 ずっと、そう思っていた。


 今、私の中には一欠けらの失敗がある。
 その失敗は、限りなく微小。
 子供でも蹴躓かないほど小さく、他人が見てもそれと気づかないほどに儚い。
 だけど、私はそれをずっと抱きしめ続けている。
 それまでの私には、失敗など無かった。
 成功が無かったからだ。
 全ての計画が――それは私の人生でもある――成功したとき、そこに私は居ないはずだった。
 いかなる成功も意味が無かった。
 それを観測することが、私には絶対に出来ないのだから。
 だから、私には失敗が無かった。
 いかなる敗北も意味が無かった。
 全ては最後の最後にひっくり返すための一手。
 全ての敗北も、
 成功も、
 苦痛も、
 快楽も、
 思考も、
 意思も、
 肉体も、
 精神も。
 私の中にある全てが、私の人生というゲームの中で、相手にとりやすいように配置された駒。
 だけど……。
 今、私はここにいて、そして失敗を抱きしめている。
 それまでの人生で知ることの無かった、その失敗は、私が想像していたよりもずっと温かくて、やさしくて、愛しかった。
 だから私は、それを強く強く抱きしめる。
 無くしてしまわないように。
 壊してしまわないように。


 私は、失敗を知った。
 失敗を、定義した。
 故に。
 いつか私は……。
 その補集合を、観測することが出来るだろう。
 生きたまま。
 そこに居たまま。
 彼と、彼女らと共に。
  





 
TUKIHIME-Mystery Style vol.1

『眠りの森・問題編』








01/


 遠野秋葉は、呆然とその少女の横に立ち尽くしていた。
 周囲は暗く、静寂が広がっている。雨が木の葉を叩く音だけが世界を支配し、生命の息吹を完全に封じ込めている。まるで現実から隔絶されたかのような、その場所。
 そんな中で、少女は地面に横たわっていた。雨にぬかるみ、土は泥へと姿を変えているのに、制服が汚れるのにも構わず、確かにそこに横たわっていた。身体をまっすぐに伸ばし、両の手を腹部で組み合わせた姿で。
 わずかな違和感。自転車のタイヤについたガムのような、微細な、明確ではない違和感。しかし、今の秋葉にはそれよりももっと重大な問題があった。
 死んでいる。間違いなく死んでいる。
 呼吸は……ない。雨にぬれた制服の胸の部分を見ても、まったく上下していない。手首に触れて確認してみたが、触れた指先から返ってきたのは凍りつくような冷たさだけだった。胸に耳を当てようとしたが、まったく体温というものを感じられず、諦めた。
 そう。最早間違いようもない。
 これは……死体だ。
 この少女は、死んでいるのだ。
 クラクラと、まるで酩酊したかのような錯覚。
 ゴム風船に乗っているかのような、危うい足元。
 上下左右、平衡感覚が壊れたかのように、目の前の映像が揺らぐ。
 冷静になれ!
 秋葉は心の中で、自分を叱責する。
 こういう状況は決して初めてではない。死体を前にしたことなど、これまでに何度だってある。それは惨殺された死体であったり、すでに腐敗を始めている死体であったり。目の前にあるこの《穏やかな死体》などに動揺するほど、自分は脆くないはずだ。秋葉はそう信じていた。
 なのに……。
 指がわずかに震える。
 声が出てこない。
 すぐに人を呼ぶべきだと、冷静な一部の自分が何度も怒鳴っているのに、冷静でない大半の自分はまったく反応できずにいた。

 なぜ、彼女は死んでいる?

 秋葉には、それが理解できない。
 これがもし、戦闘中であったのなら、秋葉はまったく動揺しなかっただろう。冷静に……否、冷徹に対応したに違いない。
 しかし、今は戦闘中ではない。
 淑女たちの学び舎。
 乙女たちが優雅に舞う世界。
 マリア様に見守られた場所。
 そう。
 ここは、死があるべき場所ではない。

 なぜ、彼女は死んでいる?
 こんな場所で。
 こんな穏やかに。

 少女の死体。その首には縄が巻きつけられていた。
 絞殺。
 その単語が、秋葉の頭をよぎる。
 苦しかっただろうに。つらかっただろうに。
 絞殺という死が、どれほど彼女を苦しめただろうか。
 なのに……少女の表情は穏やかだった。
 まるで眠っているだけのような、兄の寝顔を思い出させる表情だった。
「遠野さん……」
 声がして、振り返る。
 しかし秋葉は、その相手の顔を見た瞬間、そして同時にこの状況を理解した瞬間、全ての思考を切り替えていた。声を出すことも無く、何の反応も見せず、即座に……相手と反対の方向へ走り出す。
 森の中を、駆け抜ける。
 背後で、大きな悲鳴が聞こえた――――



02/


 遠野志貴の元にその情報がもたらされたのは、事件が発生した翌朝のことだった。
 その時志貴は、リビングで小うるさい妹の居ない怠惰な時間を満喫していた。時節は6月の終わり。梅雨のジメジメとした空気は気に入らなかったが、文句は言わない。昨日の夕方から降り続いている雨にも不服は……ほとんど無い。
 秋葉は今、文化祭の準備に忙しくなるからという理由で浅上女学院の寮に寝泊りをしている。だから、このだだっ広い屋敷の中には志貴、琥珀、翡翠の三人しかいなかった。朝起きてきても、妹の恨めしそうな顔は無い。夕食も一人、無意味に広いテーブルで摂る。そんな非日常がもう三日も続いている。「なんだかちょっと寂しいですね」という琥珀の言葉に、志貴は積極的に否定し、そして消極的に心の中で肯定していた。
 しかし、別に永遠に帰ってこないわけでもない。
 文化祭の時期は聞いていないが、今から準備をしているということは、7月の最初には間違いなくあるだろう。志貴はそう楽観している。あるいは、二学期になってからという可能性も無いわけではないのだが、もしそうなったら、この消極的な気持ちは積極的な気持ちに変化するのだろうか?
 彼は何度かそのことについて推察してみたが、答えはいつも不定だった。
 志貴がそんなとりとめのない事を、ダラダラと考えていると、琥珀から声が掛かった。
「志貴さん。お電話が掛かってきてますよ」
「あ、はい。誰からですか?」
「瀬尾さまからです」
「晶ちゃんから?」
 志貴は首をかしげた。彼女から電話がかかってくる事は絶無というわけではないが、珍しいことであることに違いは無い。まして、こんな時間には一度も無かったことだ。
 志貴は電話を琥珀から受け取る。
「もしもし。晶ちゃん?」
『し、志貴さんっ!! 大変なんです!』
 受話器から聞こえてきたその声に、志貴は少しだけ耳を離した。鼓膜が破れそうな勢いだったからだ。
「落ち着いて、晶ちゃん。どうしたの? 大変って?」
『だから、大変なんですよ! いきなりのことで……もう、もう私どうして良いか……』
 いや、だからぜんぜん分からないって。
 酷く混乱しているのか、ほとんど何を喋っているのか聞き取れない状況に、志貴は苦笑した。いや、しようとして、晶がこれほど取り乱している理由を考え、その笑みを封じ込めた。
「ほら、晶ちゃん。深呼吸して」
『は、はい』
 受話器の向こうからご丁寧にスーハースーハーという呼気が聞こえてくる。本当に素直な子だ。
「落ち着いたかな?」
『はい……すみません。私……』
「いや、良いんだよ。それで? どうしたの?」
『そうです、大変なんですよ!』
 一度は下げられたボリュームが、再びMAXまで上がった。もしかして、また同じことを繰り返すのでは……と志貴は心配したが、晶は辛うじて冷静な思考を残していたのだろう。すぐに声の音量は下がった。
『遠野先輩が……』
「……秋葉が?」晶の方から口に出すのは珍しい遠野先輩、という言葉に志貴は一瞬戸惑いながら続ける。「秋葉がどうしたの?」
『遠野先輩が……殺人事件の容疑者に……』
「……え?」
 サツジンジケン?
 何だソレは?
 志貴は耳から入ってきたその音を即座に漢字変換することが出来ず、首をかしげた。
 ヨウギシャ?
 それはもしかして、容疑者の事か?
 殺人? 事件? 容疑者?
 それはどういう意味だったか。
 一体、何を指しているのか。
 それは現象か。
 あるいは概念か。
 いきなりフランス語で話されたかのような、そんな不自由さを感じる。
 壊れたコンパイラのように、延々とエラーが出続ける。
 秋葉が……どうした?
 分からない。理解できない。
『あの……志貴さん?』
「あぁ……うん」
 そんな生返事を返してから……それが自分の声だったのだと気づいた。
 志貴はゆっくりと瞬きを二回する。それだけでエラーを回復させる。
 一回。
 二回。
「……うん。聞いてる。それで? どういう事なの? 詳しく説明してくれないかな」
『あ、はい。えっと……何から話したらいいのか……』
「とりあえず、その……殺人事件っていうのは?」
『分かりました。えっと……昨日の夕方の事です。一人の生徒が死んでいるのが発見されました』
「生徒? ってことは、学院内で起こったんだ?」
『はい。死んだのは高等部一年生の風間岬(かざま みさき)先輩っていう人で、首を絞められて死んでいるのが発見されたんです。第一発見者は……いえ、第二発見者なのかな? 二年生の園山楓子(そのやま かえでこ)先輩が見つけたそうなんです』
 園山、という名前に志貴はどこか聞き覚えを感じたが、今はそれよりも気になることがあったので、そちらを優先した。
「第二発見者?」
『そうなんです。実は……その園山先輩が遺体を見つけたときに……そのそばに、遠野先輩が立っていたって言うんです』
 なるほど。だから容疑者、というわけだ。
 確かに死体のすぐそばに立っているなんて、疑わしいことこの上ない。他の殺人事件でも真っ先に疑われるのが第一発見者だったりする。
「それで? 秋葉は今どうしてるの?」
『そうです! それなんですよ!』
 またボリュームが高くなる。感情の起伏が激しいのが、彼女の性格だ。その素直な反応に、志貴はいつもうれしくなる。
『居なくなっちゃったんですよ!』
「は?」
『園山先輩に見つかった途端、いきなり走って逃げて行っちゃったらしいんです!』
「え? ちょ、ちょっと待って! 逃げた? 何で?」
『知りませんよぅ。とにかく逃げちゃって……それから帰ってこないんです。先生達も色々探してるんですけど……』
 秋葉が本気で姿を隠すつもりなら、たぶん学校の教師達程度では一生見つけられないだろうな。志貴はそう思った。
 しかし、それにしてもなぜ逃げたりなどしたのか。
 それではまるで……本当に犯人みたいではないか。
「……ん? 先生達? あれ? 警察は動いてないの?」
 どうやら志貴もかなり混乱しているらしい。いつもより回転の遅い脳は、しばらく間隔を置いて、やっとそのことに気がついた。もっと早くその疑問を持つべきだった。殺人事件が起こって、警察が動いているのなら、とっくに自分たちに連絡があってしかるべきなのだから。
『……動いてません。というよりも……対外的には、この事件は無かったことになってます』
「対外的? それは学校の外って事?」
『そうです』
「でも、人が一人死んでるんだよね? なのに……」
『それは……ここはそういう場所なんです』
 しばらく待ったが、晶からそれ以上の説明は無かった。
 暗く沈んだ声。
 志貴は、話を変える。
「ところで、晶ちゃんは今何処から電話してるの?」
『あ、寮の自室からです。携帯で……』
「携帯なんか持ってたんだ?」
『はい。広い会場で離れ離れになったら、どうしても必要になってきますから』
 晶が一体何を指して言っているのか分からなかったが、とりあえず言いたいことは分かったので「ふ〜ん」と志貴は曖昧に返した。
『今こっちは厳戒態勢って感じで……。外出は絶対禁止。電話も禁止って状態なんです』
「なるほど。でも、携帯持ってるんなら、いつでも連絡とれるね」
『あっ、そうですね〜。えへへ」
 何故か晶は恥ずかしそうに笑った。その笑いの意味が分からず、志貴は一瞬首を傾げたが、気にすることも無いだろうとすぐに考え直した。
「分かった。うーん……それじゃあ、とにかくその事件の時の状況を詳しく調べてくれないかな?」
『え? あの……志貴さん? それは……』
「秋葉は犯人じゃない。だったら別に真犯人が居るわけで、秋葉は冤罪を恐れて逃げたわけだ。なら俺に出来ることは……一刻も早くその真犯人を見つけること、だろ?」
『どうして……遠野先輩が犯人じゃないと思うんですか?』
「晶ちゃんは秋葉が犯人だと思ってるの?」
『いえ……』
「どうして?」
『だって遠野先輩がそんなことするとは思えませんし。それに……もしそうだとしても、遠野先輩らしくないですから』
「うん。俺もそう思う」
 そう、秋葉らしくない、というのが志貴の直感だった。
 秋葉が殺したのだとしたら、きっと逃げたりなどしないだろう。殺人を自白するかしないかは別にして、きっと正々堂々と、それが当たり前のように死体の前に立っているに違いない。
 逃げたのは……そしてその状況でなおこちらに連絡を入れてこないのは、恐らく自分で解決するつもりなのだろう。たまには頼ってくれればいいのに、と志貴は苦笑する。
「お願いできないかな?」
『分かりました! 事件のことを調べればいいんですね?』
「そう。あと……出来れば現場の写真とか絵とかが欲しいんだけど……」
『う〜ん。それは……ちょっと難しいかもしれません。FAXなんてありませんし……デジカメはあると思いますけど、志貴さんの家ってパソコンあります?』
「無い」
 志貴は即答する。琥珀さんなら持ってるかもしれないけど。と、ちょっと期待したが、以前彼女の部屋に入ったときにはそれらしいものは無かった。
『私の携帯、プリケーだからカメラなんてついてないですし……』
「あ、プリケーなんだ? 大丈夫? 残り……」
『……ちょっと危ないかもしれません』
「そっか……。うん、分かった。それについてはこっちで何とかするよ。晶ちゃんはそれまでに出来る限り情報を集めておいて」
『は、はい。分かりました……』
 晶は良く分からない様子だったが、志貴は構わず「それじゃ、何か動きがあったら連絡して」と言って、電話を切った。
 そのままの姿勢で、しばし思考する。一応情報源は得られたが、まどろっこしい方法だ。このまま、学院内に飛び込んでいけたら、もっと楽だろうに。しかし、もちろんそんなことはできない。学院内に入ること自体が難しいし、迂闊にそんなことをすれば秋葉の立場がさらに悪くなってしまう。
 だがもちろん、何もしないなんてことは、志貴には絶対考えられないことだった。
 秋葉は自分で解決しようと考えている。だが、それは実際問題、難しいだろう。何とか秋葉と連絡を取れれば良いのだが、それも難しい。
 ならば、やはり自分が動いて、なんとか秋葉の無罪を証明する。……それができなくとも、せめて秋葉が出てきやすい状況を作るのが一番だろう。志貴はそう判断した。
「志貴さま?」
 唐突に、背後から声をかけられる。翡翠がいつの間にかすぐ近くにまで来ていたようだった。志貴は思考を切り替え、振り返る。
 翡翠と、そしてその後ろに立っている琥珀は、共に心配そうな顔をしている。電話の内容は分からなくとも、志貴の声だけで大体の状況は理解しているらしい。
「翡翠、それに琥珀さん。聞いて欲しいことがあります」
 志貴は晶から伝えられたことを、全て二人に話した。そして、自分がどういう行動をとるのかも。
 二人は最初驚いた様子だったが、志貴同様、秋葉が犯人であるとは思えなかったらしく、直ぐに賛成した。
「そんなわけで、琥珀さん。早急に用意して欲しいものがあります」
「はい」
 志貴の言葉に、琥珀は頷いた。それだけで、全ての意思が通じた。
 リビングを飛び出していく琥珀の背中を視線で追い、そして続いて傍に付き添っている翡翠へと向ける。
 彼は、少し恥ずかしげに、イタズラ少年のような顔で言った。
「あの、翡翠。今日は学校を休もうと思うんだけど……」
 翡翠はしばし、何か言いたげに沈黙した後、「かしこまりました」と一礼した。




03/


 晶から再び電話がかかってきたのは、その日の夜になってからだった。
『すごいです、すごいですよ! これって最新型じゃないですかっ!』
 いきなり高いテンションに、志貴はまたもすこし耳を離した。その声は近くにいた琥珀にも聞こえたらしく、二人は顔を見合わせて苦笑した。自室でかけているのだろうが、同室の友達は大丈夫なのだろうか?
「そうなんだ? 俺、あんまり携帯に詳しくないから……」
『あ、私もそんなに詳しいってわけじゃないんですけどね』
 志貴の手の中には、今その最新型らしい携帯電話がある。それは晶へ送った物と同型で、静止画だけではなく動画も取れるタイプだった。どれくらいの値段がするのかは知らないが、学生が欲しいと思ってすぐに手を出せるような物ではないことは確かだろう。
 しかし、これも今回の事件が解決するまでの間、持っているだけで、その後は使わないつもりだった。携帯電話など持っていたら、常に自分の位置を知られているような錯覚がして落ち着かない。
「それで? 収穫はあった?」
『はい。色々聞いて回って、どういう状況なのかは分かりました。あ、でも事件関係者に直接聞いたわけじゃないですから……』
 それは仕方ないだろう。警察ではない晶に、直接的な聞き込みなど期待できるわけが無かった。いい加減な噂に頼るしかないことは、志貴も覚悟している。
 だが……。
 閉鎖された空間での噂というのは決して馬鹿に出来るものではない。外部からの余計な情報――マスメディアによる先入観など――が入ってこないので、必然的に事実に沿った形になる。もちろん多彩な装飾は付加されるだろうが、根本的な間違いが無いのなら、そこから真実を見出すのは可能だった。
『事件の直接的な関係者は遠野先輩を含めて6人です。まず、第二発見者の園山先輩。園山先輩の悲鳴を聞きつけて集まってきた工藤先輩、三島先輩、東ヶ崎先輩。そして河野先生』
「その6人の関係は?」
『生徒会のメンバーと、監督役の先生です。被害者の風間先輩も生徒会のメンバーです』
「生徒会ってことは、何かの集まりだったんだ?」
『あ……えっと、遠野先輩たちは、演劇の練習をしていたそうなんです』
「演劇? ……あぁ、もしかして文化祭の?」
 晶が肯定する。
 なるほど……と、志貴は口元を上げた。そういう理由があったわけだ。秋葉からは「文化祭で忙しくなる」とは聞いていたが、演劇の話は聞いていなかった。
「何の演劇なの?」
『《眠れる森の美女》らしいですよ』
 そう言って、晶は何か思い出したのか、押し殺したように笑った。
「どうしたの?」
『いえ……。遠野先輩の役がですね……なんと、王子様役なんです!』
 一瞬、志貴は静止し……そして脳内に浮かんだその妹の王子様姿に、たまらず吹き出した。だから、隠していたわけか。いかにもお嬢様然とした秋葉だが、その凛々しい態度は予想以上に王子様役にあっているかもしれない。
『文化祭って言っても、志貴さんの学校みたいにたくさんの人が来るわけじゃないですから。どちらかというと、普段娯楽の少ない自分たちの自己満足の意味合いが強いんですよ。だから……』
 だから、女同士のラブシーン(という程でもないだろうが)なんかを求めるわけなのだろう。笑いを殺せないのか、まだ晶はクスクスと笑っている。
 だが、いつまでも笑っているわけにはいかない。
「えっと……それで?」
『あ、すみません。えっとですね……。放課後、すぐに集まって演劇の練習を始めたらしいんですけど、しばらくして被害者の風間先輩は部屋を出て行きました。おトイレに行くって言っていたようなんですけど、いつまでたっても帰ってこないから、探しに出たらしいんです』
「その時点で、居なかったのは被害者だけ?」
『いいえ。その前に、河野先生と園山先輩が席をはずしています。河野先生は放送で呼び出されたらしいんですけど、園山先輩の方は……ちょっとなんでなのか分かりません』
「OK、続けて」
『遠野先輩たちはおトイレを探してみたそうなんですが、風間先輩は居ませんでした。それでどうしたものかと考えていると、園山先輩がふらっと戻ってきたそうなんです。園山先輩は遠野先輩たちに周囲を探すように指示しました。……と、ここで遠野先輩の足取りがわかんなくなっちゃうんです。他の先輩たちは遠野先輩とは反対の……発見現場とは逆の方向を探しにいってしまったみたいで……』
 その園山という生徒に指示されたからなのだろうが、それがなかったとしても自分の意思で秋葉は別行動を取っただろう。こういうときに一人で行動してしまうのはいかにも秋葉らしい。普通なら、たとえ単独行動を指示されたとしても、ある程度誰かと近い距離を保つものなのだが。
 それが彼女の自信。あるいは、プライド。
 しかし、今回はそれが裏目に出た。
 秋葉のアリバイを証明するものは、何一つない。
「そっか……。それじゃ、遺体が見つかってからはどうなったの?」
『遺体が見つかってからは……まず、園山先輩の悲鳴が聞こえて、他の三人の先輩が駆けつけました。次に、ちょうど河野先生が戻ってきて……その後は、もう大騒ぎですよ。他の先生も駆けつけてきたり、シスターが失神したり……』
 本当に、大騒ぎになったことだろう。特に教師連中は、大騒ぎどころではなかったはずだ。学院内で人が死んだというだけでも大事だというのに、よりにもよってそれが殺人事件とくれば。
 マニュアル社会である学校においても、まさか《殺人事件があったときの対応》については書かれていないだろう。(もし書かれているのだとしたら、それは酷く歪んでいる)
 具体的にどのような対応をとったのかは分からないが、恐らく相当の苦労があっただろう。それでも良くやっている。少なくとも対外的には完全に封殺しているのだから。……それとも、そういう点だけは完璧にマニュアルが作られているのだろうか?
「その、園山……先輩? とかの……被害者、関係者それぞれの詳しい行動とその正確な時間、分かるかな?」
『詳しくはちょっと……。でも、大まかになら、もう実はまとめてあるんです』
 晶は「ちょっと待っててください」と言った。しばらく待っていると、メールが着信する。


pm 03:15(確) 演劇練習開始
             (この時点では全員揃っていた)

   03:20(確) 河野先生が部屋を出る
             (呼び出し)

   03:30(不) 園山先輩が部屋を出る
             (理由不明)

   03:45(不) 風間先輩が部屋を出る
             (おトイレに行くと言っていた)

   04:10(確) いつまでも帰ってこないので、遠野先輩が探しに行く

   04:15(不) 園山先輩と合流
            おトイレに風間先輩が居なかったので全員で探すことにする

   04:30(確) 園山先輩が風間先輩の遺体の横に立っている遠野先輩を見つける  
   
   04:35(不) 工藤先輩、三島先輩、東ヶ崎先輩が駆けつける
            その後、すぐ河野先生も駆けつける


『(確)って書いてある方は、ほぼ間違いありません。確認が取れていますから。他のは……正確なのがわからなかったので、キリの良い時間に書いてありますけど。でも、順序は間違ってません』
「被害者が居なくなってから、見つかるまで、約一時間か……」
 警察が介入していないので、正確な死亡推定時刻は分からないが、少なくとも犯行時間がこれだけ狭ければ、必然的に犯行が可能な人間も限られてくる。
 一方で、秋葉のアリバイが不確定なのは15分間。かなり短い時間だ。もちろん、それは殺人が不可能な時間ではなかったが。
「この一時間以内に、事件現場に近づけた誰かが殺したわけだ。全員のアリバイなんか、調べられた楽なんだけどなぁ」
『えぇっ!?』
「あ、大丈夫。晶ちゃんにそんなこと頼んだりしないから」
 志貴がフォローを入れると、晶はホッと息をはいた。
 しかし、不意に何かを思い出したように口を開いた。
『あ……でも、そんな簡単な話じゃないかもしれません。……実はですね。ちょっと遠野先輩にとって不利な話も聞いたんですよ』
「不利な話?」
『はい。その……昨日、夕方から雨が降っていたじゃないですか? それで……地面がぬかるんでいて……』
「地面? え、ちょっと待って。遺体はいったい、どこにあったの?」
『あれ? 言ってませんでしたっけ? 遺体は森の中にあったんです。あ、森って言っても別にそんな広いわけじゃないんですけど、校舎の裏の……って、口で説明するよりも、描いておいた絵があるんです。そっちのほうが分かりやすいですよね』


発見現場



「これ……現場の見取り図?」
『そうです』
「旧校舎って書いてあるのは……」
『五年ほど前まで使われていた校舎らしいんですけど、古くなって今はほとんど物置として使われてるんです。私も一度入ったことがありますけど、ボロボロで、階段なんか今にも崩れそうなんですよ。演劇の練習はどうやらこっちでやってたみたいですね。多分、生徒会の出し物ということで、部外者には完全に秘密にしておこうという考えだと思います。このあたり、あんまり生徒も近寄らないですから』
 晶の説明に「それは……ずいぶんな念の入りようだね」と、志貴は半場呆れながら返した。高々、高校の文化祭の演劇ごときで……。いや、それとも。先ほど説明されたとおり、彼女たちにとっては文化祭というのは、それほどまでに一大イベントなのだろうか。
 志貴はその見取り図を見つめる。詳しく注釈が入っているので、特に質問するようなことは無い。
 ただ、唯一気になったのは……。
「ん? この《足跡》ってのは……?」
『そうなんです。それなんですよ、問題なのは。園山先輩が気づいたらしいんですけど、事件現場に残された足跡が被害者のと遠野先輩のとしかなかったらしいんです。それも、渡り廊下から現場へと向かう足跡だけ!』
 それはつまり……。
 晶の言わんとしていることに気がつき、志貴は唇をかみ締めた。
「被害者に近づけたのは、秋葉しか居ないって事か……」
『そうなんです。雨が降り出したのが……だいたい3時ごろだったと思うんですけど、その後もずっと降り続いていましたし……』
「足跡を残さず、移動は出来ないの?」
『それは無理です。事件現場は……ちょっと今日はとてもじゃないですけど近づけない状況で……写真撮れませんでした。せっかくこんな物送ってもらったのに、すみません』
「いや、それは良いよ」
 情報提供を頼みはしたが、無理をして彼女の立場が悪くなってしまってはどうしようもない。それに、そんな事になれば、秋葉に殺されかねない。
『その渡り廊下を除いて、全て土がむき出しの地面です。それも、あんまり水はけが良くなくって……雨が降るとしょっちゅう水溜りが出来るんですよ』
 雨が降ったからといって、必ずしも地面に足跡が残るわけではない。水を直ぐに吸収、あるいは流してしまう場所では、足跡がはっきりと残らず、すぐに消えてしまったりする。しかし、水はけが悪い地面では、その可能性は無いだろう。足跡はイヤでもはっきりと残り、そしていつまでたっても消えない。
 雨が降った次の日、グラウンドにたくさんの足跡が残っていて、一時限目の体育の授業を半分以上使って均させられた記憶を、志貴は思い出した。
「これは、確かに大変だね」
『そうなんですよ……。その噂が流れてから、遠野先輩の立場が悪くなる一方で……』
「なるほどね……。つまり、アリバイ云々以前に、この状況を打開しないことにはどうしようもないって事か」
『はい……。それに、それがなかったとしても、事件現場に近づける人って言うのは結構限られてると思います。さっきも言いましたけど、生徒会の演劇の練習については絶対に非公開ですから。一般の生徒がこの旧校舎の辺りに近づけるはずがないんです。ほとんどお互いがお互いに監視しあってるような状況で……もし見つかったら、袋叩きですから』
 袋叩きというのは比喩だろうが、実際にそれに等しい罰則が与えられるのだろう。浅上に限らず、学校のような閉鎖社会では、そういったルール違反をした者は村八分にされてしまう。そんな状況で、あえて危険を冒したりするものか。
(いや、だからこそ、それが盲点になるのかも……)
「うん、ありがと。それについては、考えておくよ。それじゃ、次は……遺体の様子って分かるかな? 首を絞められていたっていうけど、それは手で? それともロープか何かで?」
 中学生にこんな質問をする自分の無神経さに情けない気持ちになりながらも、聞かないわけにはいかない。
 しかし、意外にも晶からは平然とした声が返ってきた。
『ロープみたいですね。細い荷物なんかを縛ったりするときに使う縄みたいです』
 ロープでは、犯人の体格はあまり関係ないということになる。手で首を絞めるのなら、被害者よりも身体が大きくないとどうしようもないが、ロープならやりようによっては、少女でも身体の大きな男性を殺すことが出来るからだ。
「他に、遺体の様子でなにか変わったこと、なかったかな?」
『あ、それがですね。事件関係者っていうわけじゃないですけど、遺体を実際に見た子……私の同級生なんですけど、その子の話では、すごく綺麗だったって……』
「綺麗? 綺麗って、何が?」
『なんか、地面に仰向けになって、こう……お祈りするみたいに、両手をお腹の上で組み合わせていて……本当に眠っているかのように死んでいたみたいなんです。その子も、最初何で大騒ぎになってるのか分からなかったそうです』
 絞殺は、殺人の方法としては比較的手間のかかる方だ。上手くやれば、十秒くらいで意識を失わせることが出来るのだが、それまでは被害者は滅茶苦茶に暴れる。
 今回も、被害者は相当に抵抗したはずだ。衣服は乱れ、緊迫性硬直が起こる可能性もあった。
 なのに、遺体は綺麗だった?
 犯人は殺した後で、わざわざ被害者の身体を整えたということか。
 被害者はそれほど抵抗しなかったということか。
 でも……どうして。
 被害者は、殺されることを予測していた?
 つまり、犯人に対して何らかの贖罪の気持ちがあったということか。
「ねぇ、晶ちゃん。動機はどうなの? 被害者が殺されるような何か、あったのかな?」
『う〜ん……それは……ちょっと良く分かんないです。被害者の風間先輩は、誰に聞いても「普通の子」っていう評価で、特に目立つほうではなかったようなんです。成績も、生活態度も、学内での地位も、親の権力も。すべて普通みたいですね。ただ、最近は生徒会メンバーに抜擢されたり、その上演劇のヒロインにも選ばれたそうで……』
「へぇ。目立たない普通の生徒が、いきなりヒロイン役か……。《眠りの森の美女》じゃなくて、《シンデレラ》ならピッタリだったのにな」
『そうですねー。私もそう思いました。でも、《シンデレラ》は去年やっているから。無理だったみたいです』
 きっと、同じ話を何年かおきにローテーションでやっているのだろう。配役が決まるずっと前から、何の演劇をするかが決まっている状態では、仕方ない。
『この役、本当は園山先輩がやるはずだったんです。でも、それが急遽風間先輩に代わったらしくて……』
「園山先輩っていうと、第二発見者の?」
 晶の肯定の声。
 つまり、園山楓子からすると、被害者の風間岬は、自分の役を奪った相手ということになるわけだ。園山には風間を殺す動機がある。
 ……もちろん、その動機は志貴には理解しがたいものであったが。だが、人というのは、意外にも簡単に人を殺してしまうものだ。殺人に限らず、全ては交換だ。あらゆるものがエネルギィを運動量に交換するように、犯罪もまたリスクとプロフィットを交換する。
 だが、必ずしもそれは、客観的に見て等価値とは限らない。本人にとっては同等のものだったとしても、他人から見れば非常にくだらないものだったりする。一般的に、動機不明とされる犯罪は、すべて客観的に何の価値も無いものを言う。
 と、そこで「あの〜……」と隣から声が掛かり、志貴はそちらを向いた。
 琥珀だった。
「園山って、もしかして自動車メーカーじゃないですか?」
「……あぁっ!」
 志貴はポンッと手を打った。最初その名前を聞いたときに感じた既視感はそれだった。
 自動車の《SONOYAMA》と言えば、国産自動車の四割を超えるシェアを持つ巨大メーカーだ。世界でも15%近いシェアを持ち、その経常利益は一兆円に上る。
「お嬢様中のお嬢様じゃないか」
 浅上ってそんな名門だったのか。志貴は改めて感心した。
「なるほど、それで警察には伏せられているわけだ?」
『えぇ……そうなんです』
 ただ単に学校側の自己防衛のためかと思っていたが、それだけではなかったらしい。
 《SONOYAMA》の息女(直系か、それとも親類なのかは知らないが)が事件に関わっているだなんて、絶対に公表できるわけが無い。たとえ犯人でも、被害者でもなかったとしても。こういうことは、必ず悪く伝わるものなのだから。
「それに、遠野家も一応、浅上の設立に関係しているらしいですから。そういう点も関係していると思います」
「そうなんですか? それは……知らなかったなぁ」
 まだまだ遠野家について、自分はまったく無知なのだと思い知らされる。
 秋葉は志貴が遠野家の長男であり、当主だというが、志貴がそれに相応しい仕事をしたことなど一度も無い。志貴自身もそれにあまり自分から近寄ろうとしたことはないし、そうしようとしたところで、秋葉が必ず止めるからだ。
 志貴には秋葉が何を考えているのか、良く分からなかった。
 ただ、なんとなくではあるが、守られているのだという実感があった。
 そのことを、志貴はまだ誰にも話したことは無い。
「でも、そんな特権階級……っていうのかな? そういうお金持ちが居るんじゃ大変だろ? 独裁になったりしないのかな?」
『それは大丈夫です。基本的に、集団の中においては親の権力というのはあんまり意味がありません。基本的に皆お金持ちですし。足の引っ張り合いになるだけですから。むしろ生徒会役員をしているとか、そういうのが学内での権力に関わってくるんですよ』
 あぁ、そういえば……と、志貴は以前の会話を思い出した。
 確か、生徒会と、寮内での派閥とがあるとか……。
『ただし、これはあくまで集団の場合です。個人の場合はちょっと例外があって……』
「個人の場合?」
『はい。例えば、親が大企業の社長の子と、中小企業の子だったりすると……』
「あ、そっか。自分の親の会社が相手の会社から受注を受けている会社だったりすると、迂闊に機嫌を損ねるわけにはいかないもんね」
『そうなんですよ。遠野先輩はそういうの気にしない人なんですけど……』
 秋葉の場合は、機嫌を損ねられたとしても、自分で報復するのだろう。
 そのほうが、余計に恐ろしいかもしれないが。
『園山先輩なんかは、結構扱いが難しかったみたいですよ。私も一度会ったことがありますけど……。気難しい人ではなくて、基本的には面倒見が良い人なんですが、親の権力を使うことに躊躇いがなくて……。被害者の風見先輩なんか、特に大変だったと思います』
「どうして?」
『親同士が……直接関係してるんです。風見先輩の会社、ほとんどSONOYAMAの部品を作ってるみたいなんです』
 それは、確かに色々気苦労があったことだろう。超がつくほどの大会社であるSONOYAMAに見放されれば、そんじょそこらの中小企業など瞬時に倒産してしまう。
 だが……そう考えると、楓子が犯人ではないように思える。それほど絶対的に有利な立場に居るのなら、殺す必要などないからだ。殺人は弱者の行為だ。それは暴力という点でだけではなく、経済的、あるいは精神的なものでも同じ。殺さなければ危険を回避できないほど弱いから、殺す。殺さなければ自分の意思を通せないから、殺す。
 園山楓子は、話で聞いただけでも、その強さが伺える。むしろ、逆なら――苦しめられた風間岬が楓子を殺す――理解できるのだが……。
 それは、楓子以外にも同様にいえる。誰か、風間岬よりも弱い人間が……この場合暴力というのは考えがたいので、経済的に、あるいは精神的に弱い人間が、果たして居たのだろうか?
「……他に。他に、何か変わった噂は流れてなかった?」
『変わった噂、ですか?』
「そう。そいうのが案外重要だったりするから」
『そうですねー。幽霊を見た、とか』
「幽霊?」
『この時期になると、だんだんそういう噂が増えてくるんです。毎年、同じような話が流れるんですよ。……ただ、今回のはちょっとタイミングがよすぎるかなぁって……』
「ふぅん……幽霊ね。確かにちょっとタイミングが良いな。どんな話なの?」
『深夜におトイレに行こうとした子が見たらしいんですけど、廊下を歩いていたら向こうから制服姿の子が歩いてきたんです。で、こんな時間におかしいな、ってその子の顔を見ようとしたら……突然! フッと姿が消えちゃったんですよ!!』
 電話の向こうでは晶が一人でキャアキャア騒いでいる。志貴はその手の話にはまったく興味がない人間だったので(本当に摩訶不思議な存在を嫌と言うほど見てきているので)、ややウンザリとした気持ちで、あっさりと聞き流すことにした。
「他には?」
『他には……えーっと……。あ、そういえば。今日、家庭科の授業のときに、調理実習室の氷が大量に無くなってたって、騒いでました』
「氷? なんでまた……」
『さぁ? そこまではちょっと……』
 誰か、酒盛りでもしたのだろうか?
 そんな不健全な考えが一瞬浮かんだが、あまりにも非現実的だったので、さっさと切り捨てた。
 きっと誰かがアイスを大量に購入してきたとか、そういうことなのだろう。
「そっか。分かった。ありがと」
『いいえ! また何かあったら、連絡しますね!』
 電話を切って、志貴は携帯を置いた。すぐに琥珀が「見てもよろしいですか?」と聞いてきたので、頷く。琥珀と、それに翡翠は、二人そっくりの顔を寄せ合って、晶から届いたメールを見つめる。
 志貴は、そんな二人から視線をはずし、天井へと向けた。
 まず、考える。
 考えるべき事を、考える。
「秋葉は犯人じゃない。だとすると、真犯人はいったいどうやって足跡を残さず、被害者を殺害し、その場から逃げたのか」
「木の上を移動したんじゃないでしょうか?」
「あはは、そんなの無理だよ」
「ですが志貴様のお知り合いの方々は、いつも木を上って窓からいらっしゃいますね」
 翡翠の冷たい意見に、志貴は「げっ!」と飲みかけていた紅茶を吹き出した。
「あ、あれは……例外って言うか……」
 しどろもどろに、言い訳にすらなっていない言い訳をする。アルクェイドとシエルのことを言っているのだろうが、あの二人と一般的な女子学生とを一緒に考えるわけにはいかない。
「と、とにかく! 木の上を移動するってのは無し!」
「やですよ、志貴さん。冗談に決まってるじゃないですか。ねー、翡翠ちゃん」
 こくんと頷く翡翠。
 やられた……。
 志貴は頭を抱えた。
 こんな時でも、琥珀のイジワルは休業しないらしい。
「まじめに考えてよ、二人とも」
「考えてますよー」
「志貴様は何か、考えがあるのですか?」
「まぁ、一応。犯人は、わざわざこの場所を選んでる。それはロープなんてものを用意していたことからも間違いない。これは、偶然、突発的に起こった犯罪じゃない。だとしたら、この場所でなら絶対の自信があったわけだ」
 おそらく第一発見者となる誰かをスケープゴートにするために、この場所を選んだのだろう。だとしたら、絶対に《この場所でなければならない理由》があるはずだった。
「つまり、この見取り図に描かれている何かがトリックとして使われた可能性が高い」
 例えば、二階の窓から木まで丈夫なロープを結ぶというのはどうだろうか?
 志貴は考えたが、しかしすぐに不可能だと諦めた。
 ロープを張って、それからどうする。
 まさかそこを移動したなんて、本気で考えられるわけが無い。それこそ、木から木へと移動するのと同じぐらい荒唐無稽だ。
 それに、たとえそれが出来たとしても、木に結んだロープをどうやって外したのか。 
「空を飛んできた、というのはどうでしょうか?」翡翠が提言する。
「空を? どうやって?」
「ハンググライダーなどを使って、校舎の屋上から……」
「翡翠ちゃん、それは無理よ。ほら、校舎から犯行現場まですごく近いでしょう? この距離じゃハンググライダーは使えないわ」
「うん。それに、結局帰りはどうしようもない」
 二人にあっさり否定され、悲しそうに口をつぐむ翡翠。
 だが、上空を使うという発想は、志貴も考えていたことだった。足跡を残さず、という条件下において、真っ先に考えられるのが、犯行現場に直接飛び降りるというものだったからだ。
 校舎から犯行現場まで、実際にどれくらいあるのか、それは見取り図からでは判断がつかない。ただ、それほど遠くではないし、近くも無いということだけしか分からなかった。10メートル前後、といったところか。ハンググライダーでも、二階の窓から飛び出せば、上手く降りられるかもしれない。もちろん、ハンググライダーで窓から飛び出すという無茶をやってのけられると仮定して、だが。
 また、同様の手法としてパラシュートという可能性も無いわけではない。木が邪魔でまともに降りられるとは思えないが、まったく不可能というわけでもなかった。 
 ただし、これはどちらも行きだけの話だ。
 帰りの足跡も気にしなければならない。
「可能性としては、やっぱりロープか何かを使ってだと思うんだけどな……」
「あるいは。足跡を残さないために、板を使ったのかもしれませんね」
「あぁ……なるほど」
 地面に足跡が残るのは、狭い面積に強い圧力がかかり、それが地面の耐久性を超えるからだ。ぬかるんだ地面では、人間程度の重さでも足跡が残るし、コンクリートの地面でだって、巨大な怪獣なら足跡を残せる。
 ならば、圧力の掛かる面積を大きくすれば良い。板を地面に敷いて、圧力を分散させれば足跡は残らない。
 ……ただし、板の跡が残るだろうが。
「でも、そんな板……あるかな?」
「あったら素敵ですね」
 にっこりと微笑む琥珀。
 結局、これも無茶な考えらしい。
「まぁ、どんな方法をとったのかまだ分からないけど、状況的に考えて、かなり危険度の高い賭けだな……」
 志貴は、ため息を吐いた。




04/


 晶から三度目の電話がかかってきたのは、次の日の昼過ぎだった。
 志貴は丁度昼食を摂り終わり、優雅に紅茶を啜っていた。
 彼は結局、今日も学校を休んでいた。昨日も夜遅くまでトリックについて考えていて、なかなか寝付けず、今もまだ眠そうな顔をしている。暖かい紅茶は、疲れて乾燥した糸瓜のような脳みそに心地よく染み込んでいく。志貴はそのまま何も考えず、頭を真っ白にしてその怠惰な時間を消費していた。
 そこへ丁度、晶からの電話だ。
 ……いや、違った。携帯を手にした志貴は、それが電話ではなくメールなのだと気づいた。しかも添付されていたのは静止画ではなく動画だった。
 志貴はそれを再生する。
 最初に現れたのは、石畳の地面だった。晶の声で、ちゃんとそれが説明される。続いて、土がむき出しの地面に移る。雨でぬかるんだまま、たくさんの人が踏みしめたのだろう。無数の足跡が入り乱れていて、事件当時の混乱がどれほどのものだったかを表していた。
 だが、そのせいで肝心の秋葉と被害者の足跡は分からなくなってしまっている。
 そこで、動画は終わった。メールで送信できる動画の容量はそれほど大きくないのだろう。
 志貴は、すでに届いていた他の動画も再生した。 
 二つ目には木が映っていた。背はそれほど高くはない。せいぜい4、5メートルといったところだった。志貴は木の種類には詳しくないので良く分からないが、針葉樹のようだった。青々とした葉が生い茂っている。
 その次に、旧校舎の映像も流れた。晶の言葉どおり、古めかしい木造の校舎で、三階建てのようだった。屋上はなく、三角形の屋根がある。等間隔に設置されている窓はすべて閉まっているようだった。
 木はどうやら校舎のすぐそばまで生えているらしく、琥珀と翡翠が言った冗談のように、本当に窓から木へと飛び移れそうな距離だった。
 三つ目の動画には地面が映っていた。酷く荒れていて、晶の「ここが発見現場です」という説明がなければ、何が何かわからないような場所だ。そこもまた、踏み荒らされた跡があった。ただ、一箇所だけ、まるでドーナツの穴のようにぽっかりと誰も踏んでいない空間が残っている。おそらくそこが遺体のあった場所なのだろう。さすがに、そこを無作法に踏みつける勇気はなかったらしい。
 見終わったところへ、晶から、今度は本当に電話がかかってきた。
『どうですか?』
「うーん……どうだろう?」
 志貴は首を傾げた。これといって何かが得られたような感覚はない。むしろ秋葉犯人説(と、便宜上命名する)を補強しただけのように感じる。一つ目の動画を見た感じでは、確かに足跡を残さず移動することは難しいようだった。
『どうしましょうか?』
「うーん……どうしよう?」
 同じような質問に、志貴は適当に答えながら、ひたすら考えていた。
 足跡を残さない、という仮定を満たすトリックが果たしてあるだろうか。もちろん、あるのだろう。秋葉は犯人ではない。そのことに寸分の疑いもない。
 ならば、どうするか……。
 と、そこで隣から声が掛かった。
 琥珀が微笑みながら、身体を乗り出させている。
「あの、ちょっと代わっていただけますか?」
「あ、はい」
 なんとなく、有無をも言わせぬ雰囲気を感じ、志貴は素直に琥珀に携帯を渡した。
「あ、もしもし。琥珀と申します。……はい、そうです。お声は何度も。……どうもどうも、ご丁寧に。……いえいえ、こちらこそ。…………えぇ。……えぇ。そうです。お尋ねしたいことは、二つです。……はい。一つは、発見現場の地面なんですけど、最近掘り返されたような跡はありませんか? …………えぇ、そうです。少し緩くなってる部分が…………あ、そうですか。分かりました。それで、もう一つなんですが、以前お話になっていた――――」
 隣で話す琥珀の声をぼんやりと聞きながら、志貴は先ほどの動画で見た光景を反芻していた。
 あの中に、何かトリックに使えそうなものはあっただろうか?
 やはり木を使ったのか。それとも校舎? あるいは映像はなかったが、噴水を使ったのかもしれない。
 可能性として、犯人が一般的な論理によって、誰にでも再現可能な方法をとっていない場合がある。犯人が、普通の人間ではない場合だ。
 それならば、志貴のこの思考は何の意味もない。
 だが、今は、出来る限りその可能性を考慮したくなかった。
 犯人は、普通の人間であるほうが良い。そうでなかったら、きっとこの事件は悲しいことになる。以前、彼が経験した数々の事件のように。 
「志貴さん、お返しします」
「あ、終わったの?」
「えぇ」
 頷く琥珀から、志貴は携帯電話を受け取ると、簡単に礼を言って切った。
 きっと明日も連絡してくれるのだろう。それまでには、なんらかの解答らしきものを出しておきたかった。
「志貴さん」
「ん? 何、琥珀さん」
「賭け事をするときに、最も重要なポイントはなんだと思いますか?」
 唐突にそんなことを言われ、志貴は首をかしげた。
「志貴さんは、昨日おっしゃいましたね。危険な賭けだ、と。私はそれがずっと気になっていたんですよ。果たして、犯人がそんな危険な賭けをするでしょうか?」
 言いたい事が分からない。もちろん、言っていることが分からないわけではない。確かに犯人が、わざわざ危険な行動をとるなど、思えなかった。
 しかし、状況はどうしたところで、危険な可能性ばかりを指し示している。
「大事なのは、賭け所を間違わないことです。最小のリスクで、最大のプロフィットを得る。これこそが賭け事の真髄です。どっぷりはまって、何万円もお金をつぎ込んで、それで同程度の金額を得たとしても、それに何の意味がありますか? 最小のリスク、最小の動作、最小の言葉、最小のお金。消費するエネルギィは小さければ小さいほど良いのです」
「それは……そうだけどさ。でも、実際にはそう上手くいかないもんだよ」
「そうですね。ですが、それが基本的な考え方だと思いませんか? 志貴さんはどうして、誰もが考えうる、最もリスクの小さい方法を、あえて思考から除外してしまっているのでしょう?」
「…………」
 琥珀の言葉に、志貴は黙った。
 最もリスクの小さい方法……。
 思考から除外されている?
 自分はいったい、何を忘れている?
 何を、思考の枠からはずしてしまっている?
 志貴は考える。
 しかし、答えは出てこない。
 いや、答えらしきものは、無いわけではない。
 ただ、それが正解である可能性は……。 
「志貴さんは、賭け所を間違っているんですよ。この犯人は、最も安全な方法を選んだのです」
 その言葉に、志貴は表情を変えた。
「琥珀さん……もしかして、分かったの?」
 志貴のその問いに、琥珀は微笑むだけで答えた。
「仮説はあります。それが正解であるかどうかは……あと一つ、確認しなければいけませんけど。まぁ、ほとんど間違いないでしょう。……志貴さん。晶さまともう一度連絡を取ってくださいませんか? 用意していただきたいものがあります」
「う、うん……」
「さぁ。明日、すぐにでも行って、すべてを終わらせてしまいましょう!」




05/


 空は珍しくも晴れ渡っている。真っ青な空には、わずかばかりの雲がかかっている程度だった。
 琥珀は、空を見ながら思う。
 空がどうして青いのか。
 その質問に、瞬間的に答えられる人間は決して多くはない。
 誰もが《青空》という言葉を使い、空の絵を描いてくださいといえば、ほとんどの人が青い絵の具を手に取るというのに。それを完全に、科学的に説明できる人間は、ほとんど居なかった。
 結局のところ、人間の知識など、その程度のものだ。
 日常に不必要な知識は、全て忘却される。それは喪失ではないが、瞬間的に再生できないという点では、最早喪失と同意だった。
 不必要な知識など、一つもないというのに。
 不必要な知識があるのではなく、ただ、知識が不必要になるだけだ。
 人は、あえてそういう風に生きようとする節がある。
 得た知識を、どんどん不必要にしていって、やがて何も分からないようになる。そうなることを、望んでいる。
 知らないことが、幸せなのかもしれない。
 無知であることが、美徳なのかもしれない。
 少なくとも、その思考は高尚と言えた。動物は忘れない。いらない知識など、一つもないからだ。人間だけが、知識を取捨選択する。ハイレベルの頭脳だけが、それを可能とする。
 だが、琥珀にはそれが、少し悲しく思えた。
「琥珀さん」
 志貴の呼び声に、琥珀は視線を空から墜落させる。 
 旧校舎の前。そこに八人の人間が集まっていた。
 志貴と、琥珀。
 観客として呼ばれた晶。
 そして……、
「これは一体、どういうことなんですか!」
 河野教諭が大きな声で怒鳴った。ただし、その声は明らかに震えていた。
 予想外のこの状況に、困惑しているのだろう。
 身長は高いが、ひょろりとしていて、繊細な芸術肌の女性という第一印象は、あながち間違っていないらしい。
 その陰に隠れるようにして、三人の少女が怯えるように、しかし一方で興味津々といった表情で、志貴たちを見つめている。この三人が工藤、三島、東ヶ崎という生徒なのだろうが、誰が誰なのかは志貴には分からなかった。
 また、その四人から少し離れたところに、一人の少女が立っていた。
 長い艶やかな黒髪に、自信に満ち溢れた挑発的な瞳。秋葉と良く似ていながら、しかしまったく逆の意味で強烈な印象を与えてくるその少女こそ、園山楓子だった。
「はじめまして、皆様。こちらは、遠野家のご長男、遠野志貴さまで御座います。私は遠野の家に仕える者で、琥珀と申します。本日は、突然のお呼びたて、大変申し訳ありませんでした。ですが、秋葉さまに不当な嫌疑が掛かっている状況ゆえ、私どもが動かざるを得なかったこと、どうぞご理解くださいませ」
「そ、それは……分かりましたけど。一体、どうして……」
「もちろん、秋葉さまの嫌疑を晴らすためで御座います」
 琥珀の言葉に、彼女たちはハッと息を呑んだ。そしてお互いに顔を見合わせる。
 そんな少女たちを満足げに見回すと、琥珀は志貴に視線を向けた。 
「では、志貴さん。お願いします」
 志貴は大きく、ややぎこちない――これからの事を想像して少し怯えているのだろう――表情で頷いた。
 そして、大きく息を吸い込むと、
「秋葉のーーー」
 力の限り叫んだ。
「貧乳ーーーーーーーーっ!!!!」
 瞬間、その場にいた晶、そして三人の少女の顔が今にも失神しそうなくらい真っ青になった。
 それは絶対の禁句。
 口にした者を地獄へと送る、特急列車。
 しかし、志貴は勇気を振り絞ってなおも叫んだ。
「ナイチチーーーーーーッ!!! ツルペタ! 抗菌まな……ぐぎゃっ!!」
 唐突に風を切って飛んできた何かが志貴の頭に命中する。
 見ると、ジュースの缶だった。しかも、まだだいぶ残っていたのか、地面に転がるそれからは、中身がこぼれ出している。
「こ、こ、こ……殺す気か……秋葉っ!」
 激痛が走る頭を押さえながら、志貴は缶が飛んできた方向へ向かって、叫んだ。
 そこには……
「に・い・さ・ん?」
 紅い……鬼が居た。
 「ヒッ!」という声にならない悲鳴が上がる。誰かが尻餅をつく音も聞こえた。しかし、それは無様ではなかった。志貴だって、今すぐ悲鳴を上げて逃げ出したい気分だったからだ。
 だが、そんな秋葉に、琥珀は平然と話しかける。
「まぁまぁ。秋葉さま、落ち着いてください」
「……琥珀。これは、貴女の差し金ね」
「どうしても秋葉さまにご登場いただきたかったので、志貴さんにお願いしたんです」
 笑いながら言う琥珀に、「こんな方法でなくても、普通に呼べば出てきます!」と秋葉は怒鳴りつけた。琥珀のイタズラは、最早年中無休らしい。
 しかし、怒鳴りつけたのは一瞬で、秋葉は意外にもすぐに落ち着きを取り戻していた。
 その場に居るメンバーを見回し……状況をすぐさま理解したからだった。
「で? これは一体、何の茶番なのかしら?」
「あはは。手痛いですね。しかし、その茶番劇を始める前に、まずは秋葉さまに確認しておきたいのです」
「何かしら?」
「風間さんは、確かに死んでいましたか?」
「……? もちろん。死んでいたわよ? ちゃんと確認しました」
「どうやってですか?」
「手首に触って、脈を確認したわ」
 秋葉の簡潔な答えに、琥珀は満足げに頷いた。
「はい、ありがとうございます」
 琥珀は、その場に居る全員を見回す。
 志貴、秋葉、晶、園山、工藤、三島、東ヶ崎、河野教諭。
 誰が、どうやって殺したのかは、最早自明だった。 
「さぁ。舞台も、役者も、観客も、そして小道具も。全て揃いました」
 琥珀は、優雅に微笑む。そして深く一礼した。
「では、皆様。しばし、この琥珀の茶番劇にお付き合いくださいませ」


解決編へ







 中書き

 まず最初に…………
 フーダニットできなかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!

 と、いうわけで、月姫ミステリースタイル vol.1 『眠りの森』問題編でした。
 フーダニット……いや……マヂで難しいかったです。
 それっぽく書くっていうのが大変で大変で……。
 それにそんなことやっとったら、尺が倍になります(汗
 というわけで、《誰か?》という問いはありません。(明言されてませんが、どんでん返しもありません)
 問題は、《どうやってか?》という点です。
 事件を解決するのに必要な情報は全て本文の中に書かれている……と、思います。
 なので、皆さん、挑戦してみてください。
 答えが分かった〜って人は、掲示板かメールにて。
(穴だらけの可能性があるので、ある意味とんでもなく難しいかもしれませんが)
 
 では、解決編でお会いしましょう〜♪