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注意!!
この作品は『王女様の三分密室・問題編』の続きになっています。
まだ読んで無い方は先にそちらをお読みください。
TUKIHIME-Mystery Style vol.2
『王女様の三分密室・解決編』
05/
本来なら事件現場である準備室に全員が集まる予定だったが、その狭い室内に九人が入るのはどう考えても難しいということで――――志貴たちは生徒会室に集まっていた。
日曜日の午前。それぞれに困惑した表情を浮かべながらも、集められた理由自体は想像がつくらしい。生徒会の面々はどこかよそよそしかった。
そんな中、一人だけ鼻息の荒い者がいる。
「遠野君、犯人が分かったんですね!」
「えぇ、シエル先輩。安心してください。全ての謎は解けました」
今すぐにでも爆発してしまいそうなシエルを抑えるように、志貴はゆっくりと頷く。
そして集まっていた生徒会メンバーたちの中の一人を指差した。
「犯人は、等々力美奈、君だ」
「……へ?」志貴に名前を呼ばた美奈は、思わず首をかしげた。しかし全員の視線が自分に向けられていることに気づくと、慌てて首を横に振る。
「ち、違います! 何いってるんですか、先輩。私は物音がしていた時にちゃんと皆と一緒にいたんですよ!」
「そうだね。だけど、それは全員に言えることなんだよ。全員にアリバイがあるんだ。これはどう考えてもおかしいよね? 容疑者全員にアリバイがあるんじゃ、事件を起こすこと自体が不可能だったっていうことになってしまう。だけど実際にドレスは切り裂かれてしまった。……だとしたら、その観測が間違っていると考えるのが普通じゃないかな?」
「観測が、間違ってる?」
「そう。そもそも犯行時刻はいつだったんだろうか? ドレスは昨日から準備室にあり、最後に確認されたのは事件の朝の事だ。つまり、朝から事件が発覚するまでの時間なら、何時だって犯行時刻になりえるわけだよね?」
「でもそれは……」
「そう。にもかかわらず俺たちは犯行時間を昼食の時間が終わった直後だと断定してしまった。本来ならもっと長い時間の幅があったのにもかかわらず、その部分にだけ眼を向けてしまったんです。それは何故なのか。理由は簡単だよね? そう、準備室の中から物音がしていたからだ」
物音がしなければ事件の発覚はもっと遅れていただろう。
その場合、どうなるだろうか?
人が死んだわけでもなく、警察でもない志貴たちには犯行時間が何時だったのかなんて判りようが無い。
つまり犯行時間は朝から発覚した時間までというとても長いものになり、結果として誰にもアリバイは無くなる。
犯人はそれを避けようとした。
だから物音を立てたのだ。
「でも――――本当にあの時、準備室の中には誰か居たんでしょうか?」
志貴が疑ったのはその部分だった。
もしシエルたちの観測に誤りがあるのだとしたら、その部分が最も妖しい。
「誰かが準備室の中に居ると考えたのは、何故だったのか。だってドアは閉まっていて、中に居る誰かなんて実際に見えたわけじゃないのに、どうして皆そこに誰かが居たと思い込んでしまったのか。それは物音がたてられていたからです。
しかしその物音は実際にリアルタイムで行われていたわけではなかった。実際には、この――――」言って、志貴は机の上に置かれたCDラジカセを指差す。「ラジカセから流されていたんです」
「ちょ、ちょっと待って……」
志貴の言葉に、シエルが反応し止めようとした。しかし志貴はそれを聞かず、言葉を続ける。
「等々力さんは事件が発覚する少し前にトイレに行っています。その時に準備室に入り犯行を行った。そしてあらかじめ数分間だけ不審な物音を録音したカセットテープをCDラジカセに入れ、再生したんです。そして急いで部屋を出て、普通に鍵をかけたんですよ。ほら。これで簡単に密室の出来上がり。後は誰かが気づくのを待ち――あぁ、もちろん誰も気づかなかった場合は自分で気づいたフリをしたんでしょうけど――職員室から持ってきた予備の鍵で部屋を開けさせる。部屋の中に入った等々力さんは、シエル先輩たちがボロボロに切り裂かれたドレスに眼を盗られている隙に持っていた鍵を置き、そして何食わぬ顔をしてそれを発見して見せたんです」
これならばあらゆる問題が一気に解決される。
鍵が外側からしか閉まらない事も。
準備室の中に誰も居なかった事も。
全員にアリバイがある事も。
事件の真相は全て解き明かされた――――かに見えた。
だが、それに待ったを掛けた人物が居た。
それまで静観していた琥珀だった。
「あのー……志貴さん。残念ながらそれはありえません」
「へ?」
「だってそのラジカセは……壊れてるんですよね?」
琥珀の質問は、生徒会メンバーに対してのものだった。
不破が代表して頷く。
「そうだよ。それ、壊れてるんだ。音が出ないんだよ」
「ほへ?」
思っても見なかった展開に、志貴は壊れたレコードのように繰り返した。そしてしばらく硬直した後、実際にCDラジカセに触れてみる。コンセントを挿しCDを入れプレイボタンを押してみたが、確かに音は流れてこなかった。CDがむなしく空回転している。今度はカセットテープの方も入れてみたが、そちらも音は出なかった。
そんな無駄な努力をしている志貴に、不破が苦笑しながら言う。
「スピーカーが壊れちゃったみたいでね。ヘッドフォンでなら聞けるんだけど」
「そ、そんな……」
それならそうと、最初から言ってくれよ――――志貴はガクリとうな垂れた。
「それじゃあ、琥珀さんの言ってた仮定って……」
「いいえ。私が先ほど確認した仮定というのは、まさにそのラジカセだったんです。ただ、問題ないと言った意味が違うんですよ」そう言って、琥珀はまさかそんな勘違いをしているとは思いませんでした、という風に苦笑した。
「ラジカセが壊れているのではないかという事を仮定するだけの材料はいくつもありました。ラジカセには二種類あります。一つは、本体の正面にカセットを入れるタイプの物。もう一つは上面に入れるタイプの物。差し込み式……スリットタイプのものもありますが、ここでは例外として除外しましょう。ここにあるのは上面に入れる物ですね。前面にCD用のスリットがあるのですから、当然カセットは上になっているはずです。一方、土曜日使われていたのは正面に入れるタイプの物でした」
志貴は思い出す。確かにシエルはそんな風に言っていた。
「皆さまも経験をお持ちではないでしょうか? カセットのA面とB面を入れ間違える、というのは。こういうのはよくあることだと思います。ちなみに、カセットを入れる方向というのは慣れていない方には分かりにくいかもしれませんが、理屈を知っていれば簡単なんですよ? 基本的に流したい面を外側にして入れる。これが正解です。
藤間さまも土曜日に、同じ失敗をされていますね。しかし……それは少しおかしいのです」
「おかしい?」
「はい。音響を担当している方が、明日上演されるというのに、カセットの面を間違えるなどと、そのような事がありえるはずが無いのです。ありえるのだとしたら、それは使い慣れていないラジカセだった。それ以外には考えられません」
「そ、それは……」
「さて。CDラジカセとただのラジカセ。この二つが並べられて、どちらが新しいと思うかというと、それは当然CDラジカセの方ですね。このCDラジカセにはちゃんとリモコンなんていうものがついていますし、最近はラジカセ単体というのはなかなか売っていないと思います。それはそれで需要が在るのでしょうが、ワープロがほとんど売られていないのと同様、人気が有ろうと無かろうと数が出ないと高価になってしまうものというのは、時代とともに消えていくものです。
では、どうしてそんな新しいはずのCDラジカセを使わず、古い――音が割れてしまうようなラジカセを使っているのか。すぐ傍に、自由に使えるCDラジカセがありながら、何故それを使わないのか。これが例えばラジカセの方が使い慣れているから、という理由でしたら納得できます。新しい使い慣れていないものよりも、古くて使い慣れているもののほうを優先する気持ちは、理解できます。しかし、そうではありませんでしたね。藤間さまはラジカセを使い慣れているわけではありませんでした。使い慣れていない古いラジカセを、わざわざ使っていたのです。それがどうしてなのか……考えればすぐに答えは出ます。つまり、CDラジカセが壊れてしまっていたからです」
琥珀の言葉に、志貴は「うぅ」と唸った。そんなすぐに出る答えに気づかなかった自分が情けない。昨夜琥珀が言ったとおりだった。情報は常に不十分で、それを補う為の仮定なのだ、と。
「では、志貴さんのお話が終わったところで、今度は私に少々お時間を下さいませ」
ヘコんでいる志貴に代わって、琥珀が一歩前に出る。
「志貴さんの仰っていた仮説は、非常に論理的で現実的だと思います。今から私が話させていただく仮説よりも、遙かに。もしこのCDラジカセが壊れていなかったとしたら、私も同様の意見だったでしょう。しかし、現実は現実。受け止めて、受け入れなければ先へと進めません」
琥珀の語り口調は志貴のそれとは違って妙な迫力を持っていた。全員が固唾を呑み、彼女の言葉に耳を傾ける。
「CDラジカセが壊れていたという条件を含めて考えた場合、犯人は確かに準備室の中に居たのだ、ということになります。しかし実際にはドアが開かれたとき、その場所には誰も居なかった。ではそれを可能にし、尚且つ最も現実的な仮説は何でしょうか? また……そう考えた場合、この部屋にあった鍵の存在はクリアされます。犯人が内に居たのなら、鍵が室内に残っていてもなんら問題はありません。しかしその代わりに、今度は錠が問題になります。この部屋は内側からは鍵をかけることが出来ず、廊下側には窓もありません。では、犯人はどのようにしてこの部屋を密室にせしめてみせたのでしょうか? 外からしか掛からないはずの鍵を閉め、そして僅か三分間の間に消え去ってしまえる。そんな方法は果たして存在するでしょうか?」
絶対的な矛盾。
犯人は内に居なければならない。
しかし鍵は外からしかかからない。
この二つの矛盾をどのようにして突破したのか。
「一つ目の、犯人はどのようにしてこの部屋から消え去ったのか。それに対しては、窓から出入りしたという方法が考えられます。犯人は普通に外から鍵を掛け、そして窓から梯子か何かで室内に侵入し、また外へ逃げて行った。これならば確かに可能といえば可能ですが……しかしあまり現実的ではありませんね。志貴さんもそれは否定されていましたし、皆様も否定されるでしょう。三階まで梯子で上り下りするなんて、どう考えても困難としかいえませんし、目撃されるリスクが高すぎます。確かに窓の外は校舎の裏側で、滅多に生徒の目に触れない場所かもしれませんが、近隣の住宅からは丸見えなんですから」
隣にはアパートが立っていて、その間には高さ二メートルほどの塀しかない――のだとしたら、それは確かに琥珀の言うとおり『丸見え』だったことだろう。犯人の心理として自分が知らないところで見られているかもしれないという状況での犯行はありえない。
「では、もう一つの問題。錠の問題について考えて見ましょう? 果たして内側から鍵を掛けることは可能でしょうか? 可能かもしれません。もしかしたら私が想像もつかないような方法で部屋の内側からドアの鍵を掛けたのかもしれません。凡そ困難であるとは思えますが、しかし不可能とも言い切れません。例えばドアの鍵穴の部分の裏側に穴を開け、そこから無理矢理シリンダーを回したのかもしれません。幸いドアは木製ですし、電動の工具があれば比較的容易だったかもしれませんね。ですがもちろん、私はこれもまた否定させていただきます。そんな方法で鍵を掛けたのだとしたら、どうしたって跡が残ってしまいますからね」
こういったシンプルな錠であるからこそ、特殊な方法ではどうしたってその痕跡が残ってしまうのだ。
もちろん、ドアにはそんな跡は一切無かった。あれば誰かが必ず気づいているはずだ。
「このように、犯人は準備室内に居なければならないわけですが、しかし密室にすること自体は困難であったこと。また、例えなんらかの方法でそれがクリアできるのだとしても、その手法自体が非常に困難であることから、私はこう結論しました――――」琥珀はそこで言葉を区切った。「ドアは、閉まってなどいなかったのだ、と」
「なっ!? でも確かに――――」
全員が思っても見なかった琥珀の言葉に息を呑む中、真っ先に反発したのは不破だった。彼は実際にドアノブに手を掛けているのだから、当然の反応といえる。
「ドアは開かなかった、ですか? えぇ、その通り。まさにその、ドアが開かない事イコール鍵が閉まっている事という発想こそが、犯人の思惑だったのです」
その発想は誰だって持っている。ミステリでは接着剤でドアを動かなくして、それを鍵が掛かっていた状態と錯覚させるトリックがあるが、それもドアが開かない=鍵が掛かっているという発想を利用したものだった。
「ドアが開くという言葉がその錯覚を強めているのだとしたら、私はこう言い換えましょう。このタイプのドアは、開くのではなく、横へずらすのだ……と」
ドアの上下、枠の部分にはレールがついている。それに沿って滑らせることで、板を一枚横へずらすのだと言うのなら……それを遮ってしまえば、板はそのまま壁になる。
「私が導き出した答えはいま言ったとおりです。鍵は、閉まってなどいなかった。この部屋はそもそも最初から最後まで密室などではなく、犯人は、皆様がこの部屋の前に集まってきてから鍵を持ってくるまでの約三分間だけ密室を演じて見せたのです」
犯人は準備室の中に居た。しかし準備室は外側からしか閉まらない。
犯人は密室ではない空間を密室だったと錯覚させることで、この矛盾を突破したのだ。
「さて。鍵は閉まっていなかったといっても、実際にどのような方法でドアを開かないようにしたのでしょうか? 私は最初、1メートルの定規をドアのレールの上に置いて開かないようにしたのかと考えました。しかし1メートルでは幅が少し足りませんし、プラスチックでは強度がやや心配です。それに、皆様がこの部屋の中に入ってきてからは迂闊に何かに触ることは出来ません。つまり、もしこの方法が使われていたのだとしたら、定規……あるいはそれ以外の何かはしばらくの間そのままドアの近くに置かれていた事になります。そんなものがドアのすぐ近くに置かれていたら、いくら部屋が荒らされていたからといっても誰かが不審に思いますでしょう? ですからこれは考えられません。
ではどのように鍵の掛かっていないドアを開かないようにしたのか。その方法は簡単で、明瞭です。犯人が中から反対方向に必死に押していたのです」
琥珀はそう、あっさりと苦笑するように肩を竦めて言った。
その本当に簡単過ぎて、明瞭過ぎる答えに……全員が唖然とした。
「具体的にどのようにやったのかはわかりません。しかし恐らくは壁に背を預けて、ドアのレールの上に足を乗せる形で固定したのでしょう。これならば、1メートル定規では届かなかったこのドアの幅も、カバーすることは容易だと思います。
皆様もご存知かと思いますが、一般的に手の力よりも足の力のほうが強いのです。また、これも一般論として、引く力よりも押す力のほうが強いのです。まして、このドアの取っ手は男性なら片手しか引っかからない程度しかありません。具体的にどれほどの力が掛かっていたのか、計算はしませんが、間違いなく押している側のほうが強いでしょう。
また、この方法を使っていたのではないかという事を示唆する要因として、ドアを開けようとしたときに、ドアの下部分は全く動かないにもかかわらず、上部分は僅かに開いた――つまり、ドアが斜めになったという事実があります。これはドアの下部分にのみ強い力が掛かっていた、ということですね」
ドアが斜めになっていたのだとしたら、横にスライドさせて開けるという機構上、腕の力と足の力のパワーバランス云々以前の問題として、ドア自体がつっかえてしまって絶対に開かない。犯人はもちろんそれを見越していたのだろう。
メンバー中最も体格の良い不破が開けようとしたところで、それは無理な話なのだった。
「さて……方法は分かったところで、しかしまだ問題は残っていますね。そう。犯人が生徒会メンバーの中に居ると仮定した場合、この方法で部屋の中に残っていたという仮説は一見不可能に思えます。何故なら鍵を開けてこの部屋へ入ったときに、全員が揃っていたという事が確認されているのですから。私もこれが非常に難問でした。仮説を覆してしまえば方法は無いわけではありません。つまり、外部犯の可能性を考慮するならば、という意味です。しかし、それでは意味がない。仮定とは確かに後になって間違っていると判明した場合覆せる仮の定義ですが、根本的な一番最初の仮定を覆してしまっては、自分が何を考えているのか分からなくなってしまいますから」
そうだ――――志貴は思った。
琥珀の説明した方法では、犯人はアリバイを確保できない。アリバイの確保という密室の意味をクリアできていない。
しかし琥珀そもそもそんな事問題にしていないかのように言葉を続ける。
「シエル様。シエル様はこの部屋のドアが開いたとき、どうしましたか?」
「えぇと……。そうですね、真っ先に駆け込みましたね。それで……その後は、恥かしながら硬直してしまって……」
「どうしてです?」
「どうしてって。だって目の前にドレスがあんな酷い姿で置かれていたんですよ? それに部屋の中も酷く荒らされていましたし。これで驚かなかったら、人間じゃありません」
別に人間の死体があったわけでもないんだから、驚かない人間だっているんじゃないかな……と志貴他数名は思ったが、琥珀があっさりとそれに頷いてしまったので、突っ込みを入れるのは控えた。
「そう。皆様がドアを開けたとき、目の前には凄惨な――と考えようによっては表現しても良いのかもしれない?――光景が広がっていました」いや、あっさり頷いたのは演技だったのか。「そのような光景を眼にしたとき、人はどういった行動をとるか。答えは簡単です。どんな行動も取れません。人はその行動の多くを過去の経験に頼っています。こういうときは、こうすればいいという風に記憶にある行動をとっているのです。しかし突発的な、過去に経験の無い異常な状況に追い込まれた場合、それに咄嗟に反応することは非常に困難なのです。
皆様も同様に、部屋の中に飛び込んだまでは良かったのですが、その後は呆然と立ち尽くす以外にありませんでした。もちろん。それは決して長時間ではありえません。特にシエル様などは、ほんの数瞬の間だけだったのではないでしょうか?」
「え、えぇ」
「ですが、犯人にとってはその数瞬で充分でした。ドアを固定していた場所……ドアの隅に隠れていた犯人は、皆様が呆然としている隙に部屋から抜け出したのです」
「ちょ、ちょっと待って。犯人が、ドアのところに居たって言うのか?」
ともすれば聞き逃してしまいそうな琥珀のあっさりとした解答に、不破が慌てて待ったをかけた。
「そんな馬鹿な。あそこじゃ隠れようが無いじゃないか。ちょっと余所見をされたら、それだけで見つかってしまう。それこそリスクが高すぎる」
「そうですね。確かにリスクは高いと思います。事実等々力様は余所見をし、その結果準備室の鍵を見つけたのですから。そういう点でこの方法は窓から出入りしたときと同程度の、あるいはそれ以上のリスクを背負っていたと考えられます。
しかし、それはある一つの条件を見逃した場合、です。このリスクは下げることが出来るのですよ。それも、おそらくはほとんどリスクなど皆無というレベルにまで。
――――シエル様は仰ってましたよね? ドアを開け、準備室へと入ったとき――――後ろから押し込まれるように一気に室内へとなだれ込んだと」
「え、えぇ……。皆が一度に入ろうとしたから……」
「そうでしょうね。そして、準備室はドアの反対側の壁が50センチほど突き出していますね。そして等々力様は、その50センチほど突き出した側の壁の隅で鍵を見つけたのです。……これで分かりますでしょうか? つまり皆様は準備室の本来の入り口から50センチも奥に入っていたのです。そして、50センチもあれば、人間は隠れることが出来るんですよ。皆様が準備室に入った時点で、ドアからそこまで、50センチの死角が――例え余所見をしたとしても、まさか後ろを振り返る事など考えられませんから――出来ていたのです」
準備室の不思議な構造。
確かにアレならば、隠れるだけの死角が生まれてもおかしくなかった。
「で、でも! それでも全員が全員入ったわけじゃないわ。私は入り口のところで残っていたもの!」
今度は美咲海が待ったを掛けた。それは確かに事実だった。美咲海は鍵を開けた後全員を通して、そしてそのまま入ったところで硬直しているメンバーの背中が邪魔で中に入れなかったのだから。だから遅れてやってきた美咲空に付き添うことができたのだ。そして、そこに彼女が残っていたのだとしたら、誰かが出てくるところを見逃すはずが無い。
だから美咲海の発言は全く正しい――――琥珀が予想していた通りの反論だった。
「そうですね」琥珀は優雅に微笑む。「さて、ここで二つの疑問が発生します」
「え?」
「美咲海さま。貴女はどうして、すぐに中へ入らなかったのですか? 鍵を開けたのは貴女です。つまり一番先頭にいたのが貴女です。なのに、どうして真っ先に準備室の中に入らなかったのでしょうか?」
「そ、それは……」
「もう一つ。先ほど私が説明した方法。ドアに鍵が掛かっていなかった、という方法に関して、貴女はどうして反論なさらなかったのでしょう? 貴女ならば、それを明確な形で反論することが出来たはずです。何故、それをしなかったのでしょう? ……もしかして、こう聞かれるのが恐ろしかったのでしょうか? 『鍵は、本当に掛かっていたか』と」
「――――っ!!」
息を呑む声。琥珀の指摘が図星だったのか、彼女は一瞬だけ怯み……そして怯んでいる自分を隠すかのように言葉を爆発させた。
「掛かっていたわ! そう、掛かっていたわよ! アンタの推理は全部間違い、大間違い! 鍵は本当に――――」
「では、どなたか。他にそれを証言できる方はおられますか?」
「なっ!? 私が、ちゃんと証言してるじゃない! 私が開けたのよ、他の皆が分かるわけないじゃない!!」」
「いいえ。それは違います。鍵を開けるときというのは、必ず音がするものなのです。これは、機構上、絶対です。無音でなど――全員が息を呑んで呼吸を止め、お互いの呼吸音すら聞こえるほど静かな空間で聞こえないほど小さな音でなど、ありえないのです。もし本当に鍵が掛かっていたのだとしたら、そしてそれを貴女が本当に開けたと言うのなら、貴女以外のほかの方が、必ず誰かがそう証言しているはずです。必ず誰かがそれを聞いているはずなのです」
琥珀はまくし立てるように一息で言うと、一度言葉を切り、そして今度は対照的にゆっくりとまるで子供に言い聞かせるように――――あるいは、死刑囚に最後の望みを問いかけるかのように、優しく問うた。
「もう一度聞きましょう。美咲海さま。鍵は、掛かっていましたか?」
海は唇をかみ締めて、何も答えない。
完全に琥珀の言葉に押し負けていて、最早どのような言い訳も通用しないと思い知らされたのだろう。
「では、どうして貴女はその様な嘘をつかれたのでしょうか。また、どうして一番最初に部屋に飛び込まなかったのでしょうか。そして、入り口に立っていた貴女は、どうして犯人が出てくるのを見逃したのでしょうか」
そんなことは、最早自明だった。
その場にいる誰もが、彼女達へ視線を向けている。
「そう……犯人は、貴女方お二人です。美咲空さま、美咲海さま」
その宣言は、場違いなほど優しかった。
分かりきった答えを小学生に教えているかのように、琥珀は沈黙する全員を見回し、言葉を続ける。
「そもそも、事件発生時に全員がそろっていたという仮定自体が間違っているのです。本当はそうではなかった。よく思い出してください。この場所に、実際に7人全員が揃ったのは、扉を開けた後になってからです。それまでは、実際には5人ないし6人しか、揃っていなかったのです。
実際には居ない筈の7人目を錯覚させられた人物。それを為し得るのは――――」
琥珀は美咲空を見る。
「美咲空様。眼鏡を外していただけませんか?」
琥珀の言葉に、空は不安げに海の顔を見る。
その顔に、海が小さく頷いた。
「…………そう、確かに――――」
空が眼鏡を外す。その瞬間に、彼女の表情が変わった。
普段の大人しく、先ほどまでのどこか怯えているようなそんな表情が雪が溶ける様に消え、その代わりに双子の妹である海と全く同じ勝気な表情が浮かんでくる。
「私達は入れ替わる事が出来るわよ」
すでに彼女は、表情だけではなく口調も、立ち振る舞いさえも変わっていた。それは琥珀が翡翠の真似をしているように、すでに物真似などというレベルは超越している、完璧なまでの擬態だった。
「実際にどちらが実行犯で、どちらがアリバイを作る役だったのか、それはわかりませんが、そのアリバイを作る役の方は階段へと続く曲がり角のところ……他の皆さまにとっては死角となる場所で、一人二役をこなしていたわけですね」
「ちょっと待ちなさいよ! 私達は確かにいえれ代わることができる。それは良いわよ。さっきの質問も上手く答えられなかったけど、それだって本当に聞こえなかっただけかもしれないじゃない! そんなことで犯人にされたくないわね! 私があの時入れ替わっていたという証拠が、どこかにあるというの!?」
空……さっきまでは空を演じていた彼女が叫ぶ。
その言葉に志貴は苦々しく心の中で舌打ちした。
それを証明する事は、最早誰にも出来ない。完璧なまでにお互いを演じることが出来る姉妹を見抜くことなど出来ないのだから。それは志貴よりも琥珀の方が良く知っていることだろう。
証明されることの無い罪。入れ替わっていたという事実が証明されない限り、琥珀の解答はただの可能性に成り下がってしまう。
そうなればもう、美咲姉妹を追い詰めることは不可能だろう。
このまま事件は闇の中に消えていくかのように思えた。
しかし、
――――そんな事は、志貴の杞憂に過ぎなかった。
勝利を確信している双子に琥珀は微笑を向け、頷いた。
「はい。証拠はございます」
「え……?」
「証明できます。いえ、もちろん証明といえるほど確固たるものではありえませんが、しかし私に、そして皆様に確信を持っていただける程度には確かなる証拠があるんですよ。
……皆様。美咲様お二人の容姿は確かにソックリ似ています。私にも双子の妹が居ますが、そんな私でも驚くほどお二人は良く似ています。ですが、一箇所だけ。たった一箇所だけ、絶対に避け得ない相違点があることにお気づきでしょうか?」
琥珀の言葉に、全員が眼を皿にして双子を見つめた。
彼女達自身、お互いにお互いを見てその相違点を探している。
体格に違いは無い。当然、服装にも違いが無い。
靴は違っていたが、しかしそれは問題ではないのだろう。そんな物は、いくらでもどうにでもなることだった。
では、何が違うというのか……。
「………………あっ! 琥珀さん、もしかして……」
一番最初に気づいたのは志貴だった。
信じられない、という風に琥珀に視線を向けると、彼女は天使のようにニコリと微笑んで頷いた。
「志貴さんはやはりお気づきになられたようですね」
確かに二人の間には絶対的な相違点があった。
それは、二人がお互いの役割を演じている限り絶対に避け得ないもの――――。
「藤間様。藤間様は仰ってらしたそうですね。何か違和感を感じた、と」
「あ、えぇ、はい」
「その違和感の正体は、もしかしたらこれなんじゃありませんか?」
そう言って琥珀が指差したのは、美咲空……の鼻だった。
「あっ――――」
藤間が気づいて息を呑む。
スラリと流れるような美咲姉妹の鼻の形はほとんど――少なくとも気づかないほどに――違いは無かった。しかし、そこに……どうしようもないくらいハッキリとした相違点は存在していた。
「そうだ。そうですよ! それです――――眼鏡の跡です!!」
「え――――」
眼鏡には――正式名称は定かではないが――レンズが眼の部分からずれるのを防止する為に鼻の部分で支える部品がついている。
そして、実質眼鏡の重量のほとんどを受け持つその部分には、眼鏡を掛けた後どうしたって必ず、跡が残ってしまうのだ。
「メガネをかけていないはずの海さんに、どうしてそんな跡が付いてるのかな?って思ったんだ」
確かにそれはおかしいと思うだろう。
この眼鏡の跡というのは他に似たようなものなど一切ない、まさに眼鏡をかけている人間特有のものなのだから。
そして、この眼鏡の跡は短時間でもついてしまう。まして事件のときは朝から美咲空を演じていた彼女には、相当ハッキリと跡が残っていたことだろう。そしてそれは、僅か三分間の間に消えてしまうようなものではない。
「藤間様と、シエル様。そして志貴さん。このお三方だけが何故その違和感に気づけたのか。その理由は簡単です。お三方は眼鏡を日常的に掛けていらっしゃるからです。眼鏡を日常的にかけている方なら、自分でも毎日のように見ているもの。鼻に跡が付くというのは、それだけ常識的な知識なのでしょう」
琥珀はゆっくりと語りだす。
「知識とはただ溜め込めばそれだけで価値を産むものではありません。一般的に、広い知識は、広い視野と認識力を養います。よく、学校で教えていることなんか社会に出ても役に立たないと仰られる方がおられますが、それは正確ではありません。揚力を知っている人は、何故飛行機が飛ぶのかという事を、それを知らない人よりもより正確に認識できます。自転車が何故転ばずにまっすぐ進めるのか、それを正確に理解できている方がどれだけいるでしょうか? 空が何故青く見えるのか、それをどれだけの方が解説できるでしょうか?
確かにそれを知っていたからと言ってどうなるとは言えません。しかし例えそれ自体に何の意味も無かろうとも。何の価値も無かろうとも。それが重要なのではないのです。情報の総量が多ければ多いほど、整頓されていればされているほど、より多様な条件に対応できる。これが正しいシステムというものです。これが正しい人間というものです。今回の件が良い例ですね。眼鏡に関する知識など持っていても社会に出て全く役に立ちません。しかし、それによって養われた認識は、貴女方の犯罪を裏付ける物となりえましたでしょう?」
――――双子姉妹の表情が、壊れた。
それはもちろん現実ではなかったが、しかし志貴にはそうとしか思えなかった。
愕然とし、蒼白となったその表情を見て、志貴は「あぁ、これが彼女達の素の表情なのだな」と思った。演じることの出来ないその心は、明確なまでに、ソックリであった二人の差異を表していたからだった。
もしかしたら、彼女達はもうすでに自分がどちらなのかということまで、曖昧になっているのかもしれない。
お互いがお互いを演じ、そして自身をも演じる。
美咲空というキャラクターを。
美咲海というキャラクターを。
まるで服でも着替えるかのように切り替える。
それは――――最高の共犯者だった。
「どうして……」一番早く、その硬直状態を脱し、声を発したのはシエルだった。「どうして、こんな事を……」
その声は震えていた。
志貴はそれに少し驚く。犯人が分かればその場で襲い掛からんばかりの雰囲気を纏っていたはずのシエルは、しかし今はむしろ……悲しげだった。
「どうして……? どうしてだか、分からないって言うの?」
「シエル先輩には分からないわ! 自分は王女様なんて役をやっていて、私達の気持ちなんて分かるはずない! そう――――高校生にもなってジャガイモと人参のきぐるみを着て人前に出なければならない私達の気持ちなんて!!」
「………………へ?」
美咲空……なのか海なのかもうどちらかは分からないが、彼女の言葉に志貴と琥珀はわが耳を疑った。
ジャガイモと人参のきぐるみ……?
「両親だって来るのよ? 最新式のビデオカメラを買ったって言ってた! そんな前であんな間抜けな格好、できるわけないじゃない!」
「そうよ! そんなの良い笑い者だわ! いつか子供が生まれて、その子供に私はそのビデオを見せられるって言うの!? あのね、今まで黙っていたけど、お母さんは若い頃実は……人参だったのよ♪ ――――って! 言えるかっ、そんな事!!」
「…………」
そりゃ――――言えないわなぁ。
うんうんと、思わず頷いてしまう琥珀と志貴。
しかし衝撃の真実はまだ終わらない。
「やめろよ。言うなっ。お前らなんてまだマシだろうが。俺なんて、俺なんて――――玉葱なんだぞ!!」藤島太一が叫んだ。「あめ色になるまで炒められるんだぞっ!!」
いったいどんな劇なんだろう?
志貴はむしろそちらの方が重大なミステリに思えてきた。
玉葱のきぐるみを着た役者があめ色になるまで炒められる劇なんて、恐らく他では絶対に見られないはずだ。
っていうか、シエルは本気でそんな馬鹿げた劇をやるつもりだったのか。その神経もミステリだった。
「あんなくだらない脇役、絶対絶対ぜぇーったいっ、お断りよ!!」
「そうだ! 劇やりたいんだったらせめてもっとマトモな脚本にしやがれ! 玉葱の役なんてどう考えても不必要じゃないか!!」
ブーブーと、あるいはギャーギャーとブーイングが広がる。それを止めない不破や等々力、藤間の三人もおそらく不満があるのだろう。
しかし騒ぎはそれだけでは収まらない。
「ふ――――ふざけないで下さい!!」
今度はシエルがキレた。逆ギレだった。
「何ですか、あなた達はさっきから聞いていれば! ジャガイモや人参の役が脇役ですって? 玉葱の役なんて要らない!? 冗談じゃありません!!」
ガバァとまるでどこぞの宇宙軍の総帥のように派手なアクションでシエルは拳を握り締める。
そしておバカな事を叫んだ。
「ジャガイモや、人参が。玉葱がなければ、カレーは存在し得ないのです!!」
「……あれ?」
何かキレる所を大いに間違っている気がする。するのだが……志貴のそんな疑問など無視してシエルはなおも叫ぶ。
「カレーとは、スパイスを溶いただけのただの水じゃないんですよ! カレーとは、様々な野菜たちのハーモニィなんです! それぞれがそれぞれの旨みを存分に出し、お互いに引き立て合い、そうして一つのカレーという形が完成するんです!
カレーにとって、王女役なんていうのはむしろただの脇役です。この劇の主役は、あなた達なんですよ!!」
……劇のタイトルって『S&B カレーの王女様』じゃなかっただろうか?
志貴は素直に疑問に思ったが、しかしシエルが力いっぱい力説しているのにツッコミを入れる気にもなれず……というかそんな事をしたら恐ろしいことが起きそうだったので、黙っておくことにした。
「私は皆にもそうあって欲しかったんです。それぞれがバラバラで、どこかまとまりの無いこの生徒会を、なんとしても一つにしたかった。だからこうやって劇をすることで、団結を深めようとしたんです。……それなのに……」
シエルの告白に、志貴は――あからさまに嘘っぽいなぁ、なんて顔を引きつらせた。
絶対文化祭でおジャンになったのを恨んでいて、今度はそうならないよう生徒会を巻き込んだだけのような気が……。
しかし他のメンバーたちはそうは思わなかったらしい。
「すみませんでした……。あなた達の気持ちも考えず、私の意見を押し付けてしまって。私が、間違っていました」
「それは違う。シエル君。間違っていたのは私達の方だ。シエル君がどれほどこの生徒会の事を、私達の事を考えていてくれたのか気づきもせずに……」
不破が自身の誤りを悔いるように言った。
「そうですよ。先輩。僕も、間違ってました」
「そんなに考えてくれてたなんてっ! ごめんなさいですっ!」
藤間作次郎と等々力美奈がそろって素直に頭を下げた。
「……ふん。そういう事は、最初に言っといて欲しかったですね」
藤島太一も、素直ではなかったが、そう言ったその顔は少し赤かった。
「シエル先輩……」
「その……」
「「ごめんなさい!」」
美咲姉妹が同時に頭を下げた。
「皆さん……」
その反応にシエルは感激したような戸惑っているような表情を浮かべる。
しかしすぐに事態を受け入れたのか、目頭を拭いながら――別に涙なんて出て無いのに――微笑んだ。
「……良いんです。良いんです、分かってもらえれば」
「「シエル先輩っ!!」」
ハモリながら、またも同時にシエルの胸に飛び込む美咲姉妹。
シエルはそれを優しく抱きとめる。
その周りをメンバーが囲んでいる。
不破などは目頭に涙を浮かべながら、なにやらウンウンと頷いていたりした。
そして――――志貴たちは。
まるで70年代の青春ドラマのような状況になっているその部屋から、バレないようにこっそりと、そして出来る限りそそくさと抜け出した。
頭がイタイ。何か、すごく間違っているような気がするのだが、それがどう間違っているのかが分からず、だから志貴は小さく一言だけ言った。
言ってやった。
言わずにいられなかった。
「…………………………勝手にやってろ」
やっぱり世の中、理不尽だ。
ep/
後日譚として。
劇は二週間後の日曜日に無事講演されることとなった。
志貴は当然招待されていたが、見に行くことは出来なかった。
その日は妹のご機嫌取りのために忙しく、どうしても屋敷を出る暇が見つけられなかったからだ。
だから実際に劇がどのような内容だったのか結局分からないまま、美咲姉妹が人参とジャガイモのきぐるみを着ているシーンは見れなかったし、藤島太一扮する玉葱があめ色になるまで炒められるシーンを見ることも出来なかった。
それが少し残念といえば残念だったが、しかし劇は無事終了し――スタンディングオーベーションまで起こったらしい。本当にどんな劇だったのだろう?――そして生徒会は今まで以上の結束を見せている。志貴にはそれが嬉しかった。
もともと美咲姉妹はちゃんと仲間意識を持っていたのだ。何故なら、彼女達がもし最小のリスクで最大のリターンを望むのならば、その方法は『誰かを犯人に仕立てあげる事』なのだから。彼女達にはそれが出来た。わざわざ、全員容疑者だが全員犯人とは思えない、という状況を造り上げる必要などどこにも無かった。
しかし、彼女達はそれをしなかった。おそらく、犯人が特定されてしまうのを――例えそれが間違った結論だったとしても――避けたかったのだろう。その人物以外犯人でありえない状況を、そしてそこから始まる拒絶を、避けたかったのだろう。
それは子供じみた、あまりにも不器用な気遣いだったが……それでも確かにメンバーを仲間と認識している証拠だった。
こうして生徒会の不思議な事件と不思議な劇は閉幕を迎えることとなった。
どうやら、シエルの目的は……二つとも、成功したらしい。
あとがき
というわけで――――『王女様の三分密室・解決編』でした!!
どうでしょう? 皆様の推理は当たっていたでしょうか?
今回はミスリーディングされてしまった人もいるかと思います。
ミスリーディングされておきながら犯人を当ててしまうという方も居ましたけど(汗
やっぱりフーダニットは難しいですよ。
双子なんていうミステリにおいては真っ先に疑うべきキャラを登場させてるんですから、当然犯人だけ指摘される方が居てもおかしくないわけですが。
さて、方法に関しては普通に考えればラジカセを使ったと考えるのが妥当だと思います。
しかし! そこでトリックと呼べない程度のトリックしかない本作の中で一番の見所――『CDラジカセは壊れていた』というミスリーディングの登場ですよ!
これを見抜けた方はそうそう居ないと思います。
今回は当然、ここに気づけてこそ完答とさせていただきます。
だってラジカセを使っている限り「誰にでも可能性はある」というループから抜け出せないわけですから。
琥珀さんがあっさりと犯人に気づいてしまったのも、ラジカセが壊れていたのなら犯行が可能なのは双子の美咲姉妹しかありえない、と仮定していたからですしね。(「『新しいはずのCDラジカセ』が『物置代わりに使っている準備室』にあるのであれば、何の問題もありません」」と言ってますし)
ここが一番重要なポイントです。
ちなみに、最後のメガネの跡に関しては指摘できなくても構いません。
だって……あれじゃ分かんないですもんね?(汗
個人的に美咲姉妹が犯人であると仮定できれば、メガネの跡に関しても類推できると思うのですが……雨音自身がどこまで書いていいものか判断しかねて、あんな曖昧な書き方になってしまいました。
一応志貴がメガネを外すシーンで鼻についた跡に言及していますが、これで気づけというのも……ちょっとアンフェア気味ですか。
こういう時、漫画なら簡単なのになぁ〜(ぉ
というわけで、本作はこれにてお仕舞い。
引き続き、何時でも推理の穴に対するツッコミは受け付けますので、どしどし突っ込んじゃってくださいませ♪
でわでわ〜。